湿っぽくて寒い冬の武漢:新型コロナは湿気に弱いのか?

牛泥棒、馬泥棒は「殺人より罪が重い」という歴史を持つ牧畜民族の末裔たる米欧諸国は、同時に家畜類の伝染病にも生存が脅かされてきた苦い経験を持つだけにシビアだ。

武漢の新設病院の搬送受け入れの様子(新華社動画より)

オーストラリア当局は、新型コロナウイルス集団感染が発生したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」からチャーター機で帰国した同国人乗客のうち、2人にウイルス感染が確認されたことを明らかにしたが、日本の検査では感染は陰性という判断だった。

それより前のアメリカの場合は、帰国直前に陽性反応が出てしまった14人も、陰性の者と一緒の飛行機で帰国させる、規則を超えた素早い動きをみせた。米豪ともに帰国者全員14日間の隔離を行うから、さらなる感染への問題点は少ない。

いずれも陰性判定を受け下船した乗客を自由に移動させた日本の対応に疑問を投げかけるものだ。疫学の水準は世界でも有数といわれる日本だが、防疫運用が後手、後手にまわるのは、「長老に伺いをたてなければことが進まない」稲作民族の伝統・慣習がいまだに残るからにも思える。

いま、さらに、日本で警戒しなければならないのが、未知の新型コロナウイルスが、インフルエンザ・ウィルスと同じようなものと考えられやすいことだ。「新型コロウイルスは、まだ適切な治療法がなく、未知で不安になっているが、ウイルスは湿気や暑さに弱いので、これからジメジメしてくると活動は弱くなってくる」と、お気軽にテレビで解説する著名ジャーナリストもいれば、同様にインフルと同じように湿気に弱いと指摘する医者もいる。その一方で、「いや、新型コロナは湿気に弱いウイルスではない」とする学者も登場する。

要は不明なままなのだ。

武漢市内を流れる長江(Yohann Agnelot/flickr)

中国湖北省武漢が、新型コロナウイルスまん延の”震源地”であることは、ほぼ疑いないことだが、鹿児島県の種子島の最北端と同緯度のこの武漢は、「夏はストーブのような暑さで、冬は湿っぽくて寒い」亜熱帯湿潤モンスーン地域ということに注目しなければならない。

武漢の年間の平均湿度は75%前後で、70%を割ることはない。大河長江が年間を通じて生み出す、霧と水蒸気による高湿度地域だからだ。新型コロナウイルスは、そんな環境から発生している。その長江河口の上海も高温多湿で知られ、いまのような超近代都市に生まれ変わる前には、長らく街は不健康さで有名だった。

ところでヒマラヤ山麓のネパールに行くことになったとき、まず防寒具のことが頭をよぎった。東京のネパール大使館でその話をしたら、係官は「ネパールは亜熱帯だ」と笑って答えた。同様に中国内陸部の冬も、厳寒で乾燥しているとわれわれは思い勝ちだが、実は湿っぽくて寒い武漢から、新型コロナウイルス騒動は起こったのだ。

「ウイルスは湿気や暑さに弱い」という一般常識は、新型コロナウイルスには当てはまらないのではないか。そこが心配だ。