これでいいのかAMED:非常事態に何を言っているのか

一昨日、日本医療研究開発機構(AMED)の理事長が緊急会見をしたと聞いたので、その様子を見た。正直言って、がっかりだ。コロナウイルス対策についても、これからどのような研究支援をするとか、研究者は論文が重要なので、情報を共有することと発表のタイミングの両立を考えるとか、この非常事態に何を言っているのかと腹が立ってきた。最後は、あからさまに自分がもう一期理事長をやりたい気持ちをにじませていた。何なのだ、大きな国難に直面している時に、この感覚は?

WHOは臨床試験が始まっていて、3週間後には薬が効くかどうかの傾向がわかると言っていた。この試験に日本は入っているのか?AMEDは関与しているのか、国民が知りたいのはこの点だ。

当初から報道されていた、HIV薬とインフルエンザ薬の組み合わせ、エボラ出血熱の薬剤、マラリア薬などが世界的に検証されているようだ。新しい薬剤の開発やワクチン開発など、そんな悠長なことを言っている時期ではない。今、この感染症を封じ込めるために必要なこと、既存薬の応用が可能かどうか、それが緊急に必要なことだ。何のための「緊急」会見なのか、私には疑問だった。

武漢から帰国した後、隔離を拒否して帰宅した親子がコロナウイルス陽性になったという。結果論ではなく、危機管理対応として、やってはいけないことだと思う。検査対応が遅れているので、陽性者は限られているように見えるだけで、潜在的な感染者は、桁違いに多いと想定した対応が必要だ。

とはいえ、もう、コロナウイルスに関するブログはこれで終わりにする。もはや、感染の拡大は避けようにない。病院や学校の休診、休校が出始めたし、これ以上は、国民一人ひとりが自覚して拡大を抑え込む時期だ。起こったことを振り返って、批判に対する対応に時間を取られているような暇はない。

話はガラッと変わるが、最近、1歳未満の子供さんを持つ、がん患者さんからの相談が続いた。過度にマニュアル化されたがん治療に心を痛めている患者さんや家族がそこにいた。私の出身大学は緒方洪庵の適塾にルーツがある。

「医の世に生活するは人の為のみ、おのれがためにあらずということを其業の本旨とす。安逸を思はず、名利を顧みず、唯おのれをすてて人を救はんことを希ふべし。人の生命を保全し、人の疾病を復治し、人の患苦を寛解するの外他事あるものにあらず。」

時を経て、医療から大切な気持ちが失われている。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年2月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。