クルーズ船下船は概ね適切&シウマイ弁当騒動

「シウマイ弁当騒動」政府批判への反論

新型ウィルス感染症の感染が拡大したクルーズ船を巡り、10日ほど前にシウマイ弁当騒動があった。「せっかくの崎陽軒の好意を台無しにした」「徹底解明を」とかSNSでも論議が沸騰していたので、私はFacebookで次のように指摘した。

こんな混乱のなかで、十分な調整もせずに当日中しか食べられない料理を送り付けたことは、いささか乱暴なやり方で、クルーズ船からすればありがた迷惑だったことは少し考えればわかることである。むしろ、ご迷惑をかけてすんませんと崎陽軒はいうべき問題でないかと思います。

崎陽軒シウマイ弁当(崎陽軒HPより)

外国人が過半数であるなかで予定されていた高レベルの食事をやめてシウマイ弁当にしたらほとんどの客は怒るし食べない乗客も多いだろう。外国人のほとんどは日本在住でないのだ。中国人はあまりいなかっただろうが、中国人は暖かくない弁当は嫌うからこれもダメだ。大量に残飯が出て処理に困るに決まっているではないか。

そうしたところ、その後、政府の対応が甘すぎたと論陣をはっておられる方からも「横浜市民全員をお前は敵に回した」とか今は恥ずかしくて言えないであろう罵詈雑言を私は浴びせられた。

(そのときのFacebookもリンクを貼っておくのでぜひ確認いただきたい)

あの当時は、乗客の生活の質にもっと配慮しろという意見が強かったのである。また、乗客も安全対策よりも生活の質を求めていた傾向があり、そうした精神衛生の問題は健康維持にも直結して死者も出るに違いない以上、厳しい制限をするのが現実的だったとはいえない(これほど感染が拡がっていることが分かっていたらそうした弊害があってももう少し生活の質を犠牲にすることに傾いても良かったと結果論としてはいえるが)。

そうした点について、岩田健太郎教授を船内に入れた高山義浩医師は次のように述べている。

ひとつは、症状が軽かったため自己申告していなかった可能性が考えられます。クルーズ船では、自己申告による発症者と濃厚接触者(=同室者)に対して検査を実施してきました(例外あり)。そこで陽性が確認されると病院へ搬送されます。

そうなると、ここまで支えあってきた夫婦は引き裂かれ、連絡を取り合えるかも分からないまま、船と病院へと別々に隔離されてしまうのです。また、船の食事は外国人向けに作られており、なかなか美味しいとの評判です。というわけで、迎えのフライトが来ることも分かってましたし、発症したことを申告せずに粘ってた人が多かったのかもしれません。

船内で部屋に閉じ込め、感染が確認されてなくても夫婦などを引き離し、カロリーメートでもまとめて配り、掃除も自分でやらしたら良かったのか?シウマイ弁当を配らなかったとかいう馬鹿らしいことを糾弾していたのに限って精神衛生を無視した議論を事後的にいうのには本当に腹が立つ。

下船したイタリア人乗客を羽田まで輸送する自衛隊(自衛隊ツイッターより)

PCR検査を巡る高山医師の明快な説明

また、感染症の場合、菌が検出されるかどうかは、程度問題でもあり、陰性と判断されたなかで陽性者が出るのも当たり前のことだ。これについても、高山氏は明快な説明をしている。

日本で行っている検査法よりも、両国が感度の高い検査法を実施したことが考えられます。たとえば、咽頭ではなく鼻腔拭い液で調べると感度が上がると言われています。ただし、鼻の奥深くにスワブを差し入れるため、採取後に咳き込む患者さんが多く、飛沫が大量に発生します。つまり、医療者への感染リスクが高まるため、船という閉鎖空間では躊躇される検査法でした。

ちなみに、PCRの感度はどうかとよく聞かれるんですが、そもそもスタンダード(母数の定義)が曖昧なので答えにくいです。

感染しても無症候の人がいますが、そうした方々にPCR検査を実施しても感度はとても低いでしょう。また、中国のデータでは、発症直後からウイルス量が上昇している(≒感度が高い)ことを示していますが、7日を経過したあたりから低下してきます(添付のグラフ)。つまり、治りかけている患者さんでも感度は低いものと思われます。どのような状況において、この検査を使うのか…ということが重要なんですね。。

クルーズ船を下船して国内に帰る全乗客についてPCR検査を実施したことは、良い判断だったと思います。効率的に陽性者を発見できましたし、速やかに下船させることで臨床的な見守りにつなげることができました。でも、PCRの結果について注目が集まり、ある種の過信を与えてしまったとすれば、それは残念なことだと思います。

やみくもに検査するのかということだが、これも、私たちがインフルエンザかなと思ってホームダクターのところに行くと「熱も出たばかりで、感染したかもしれない日から日数が経っていないときは検査しても無駄だから3日後に熱が続いているようなら検査しましょう」と断られることが多い。これも高山氏は以下のように説明している。

臨床医なら誰しも知ってることですが、ほとんどの臨床検査は診断における補助的な役割しかありません。感度の低い状況で使用することは、判断を誤らせるリスクがあるため躊躇します。だからこそ私たち医師は、問診をして、診察をして、状態に応じた検査を選択しているのです。

新型コロナについて、PCR検査を上手に使いこなすコツとは、症状のないときには検査をせず、症状が出てから検査をするってことです。「無症候で経過する感染者もいるだろ!がないです。キリがないです。

疑わしい人を追いかけまわして、感度の低いPCR検査で一喜一憂するよりは、症状があるときには外出を自粛いただくよう伝えて、適切な方法で受診いただくように伝えるのが、現時点では良い落としどころだと私は思いますよ。このウイルスの感染力からすると、これでも十分に感染拡大を抑止する効果が期待できるはずです。

公共交通機関で自宅に返した措置に問題なし

また、公共交通機関で自宅に返したのは言語道断という罵詈雑言が満ち溢れているが、3000人もの乗客を船の外で互いが接触しないように閉じ込めておくとか、全員を救急車で自宅まで届けることなどどうしたら可能か教えて欲しい。あるとすれば、アメリカ人など特別機で帰国した人以外はさらに何週間も船内に閉じ込めておくことしか選択はなかったと思う。

これも、高山氏の次のような説明は納得できるものだ。

PCR検査にて陰性かつ症状もないことを確認した方々です。前述のように偽陰性の可能性はありますが、あったとしても極めてウイルス量の少ない無症候性病原体保有者です。

症状がない人であってもウイルス量が上昇しており、感染力を有する原因になっているとの指摘があります(Lirong Zou: N Engl J Med. 2020 Feb 19.)。そのような人がPCR偽陰性となる可能性は低いでしょう。よって、今回下船した方々が電車やバスといった一時的な空間共有をしたとしても、感染を広げるとは考えにくいです。

今後、発症してくる方がいるとすれば、それは自宅に戻られたあと、数日してから発熱や呼吸器症状を認めてくることでしょう。ですから、なるべく自宅で過ごしていただき、症状があれば保健所に連絡するようお願いしています。

実はこれ、いま市中で確認されている新型コロナの患者さんの濃厚接触者と同じ対応なのですね。市中における濃厚接触者は自宅で過ごすことを認めているのに、クルーズ船の乗客には隔離を継続するというのは、矛盾していますし、人権にも関わると私は思います。

国際社会が文句を言うのは筋違い

それから、日本の対応について、国際社会は文句など言えるはずがない。クルーズ船についてアメリカやイギリスが少なくとも自国民について感染しているかどうかわからなくてもそのままアメリカへ連れて帰ると言って日本がそれなりの回答期間があったのに断ったと言うのなら日本を非難されるべきかもしれない。

しかしそのような話はなさそうだし、むしろ日本に押し付けて船内閉じ込めを推奨していただけではないか。しかも日本にはあれだけの人数の日本語ができない人数を陸上に上げて船の上より適切に対処できることは不可能だったと思う。

WHO主導で国際的に対応してくれることをお願いすると言うことで責任を逃れることはあり得るかもしれないが、世界の専門家集団を動員できるはずのWHOですら適切に対応してくれたと思えない。