土曜日のエントリーに対して、関係会社の方から連絡をいただきました。まだ、どうすべきか思案中ですので、当該コメントの取扱いにつきまして、もうしばらく非公開といたします。とても長文なので少しお時間をください。。。
さて、2月24日(月)の日経朝刊(法務面)には、「アスクル、親子上場に一石、4人の独立社外取締役を選定、少数株主の権利に配慮」と題して、先日当ブログでもご紹介した「アスクル・モデル」が(比較的)好意的に紹介されていました(正確にはZホールディングスとアスクルは親子関係ではなく、支配・従属関係だと思います)。
当記事の中で、社外取締役候補者G氏の「抱負」(全体最適と部分最適が合致しないような有事のケースでは、部分最適を優先したい)が紹介されています。私も、子会社取締役の決意としては、この点が核心だと考えています。
ただ、昨年6月28日に公表された経産省「公正なM&Aの在り方に関する指針」でも、MBO等によって親会社と子会社の利益相反状況に至った場合には、特別委員会を構成する社外取締役は極力少数株主側に立って親会社と交渉することが要請され、その結果として初めて「(親子間の取引は)独立当事者間での取引と同視しうる」とされています。
したがって、G氏の語った抱負については、現在の上場子会社(従属子会社)の独立社外取締役の行動規範として、至極当然に要請されるところではないかと。もちろん親子間取引が上場子会社の利益に適うかどうか、子会社取締役としての責任ある判断が求められますので、なんでもかんでも反対、ということが推奨されるわけではありません。
ところで、当該「公正なるM&A指針」が上場会社の実務として浸透すれば、今後、親会社の方針に対して、上場子会社(従属子会社)の社外取締役が反対の意思を表明するケースも増えてくるのではないでしょうか。
上記アスクルモデルでは、(社外役員が多数を占める)指名委員会や報酬委員会が、取締役会の最終判断と異なる意見を取締役会に述べている場合には、同委員会が、対外的に意見表明できる権利が確保されているらしいので、上場子会社の株主にとっても、社外取締役の行動の透明性が高まります。
さて、そうなりますと、親会社側で考えておかねばならないのが「子会社管理上のミスに対する法的責任」です。これまで、子会社管理上のミスで親会社取締役の法的責任が認められた事例というのはほとんどありません。たとえば、リーディングケースとされる野村證券孫会社SEC課徴金事件株主代表訴訟判決(東京地裁判決平成13年1月25日 判例時報1760号)では、
親会社の取締役は、特段の事情のないかぎり、子会社取締役の業務執行の結果子会社に損害が生じ、さらに親会社に損害が生じたとしても、直ちに任務懈怠の責任を負うものではない。ただし、親会社の取締役が子会社に指図をして、その指図が親会社に対する善管注意義務や法令に反する場合には「特段の事情」として、親会社取締役の損害賠償責任が肯定される場合がある。
とされています(以上は判例の要旨です)。原則として親会社の取締役は、子会社管理上の法的責任を負わないように思えますが、子会社の経営判断が親会社によってなされたと同視しうる場合には法的責任を負う可能性が出てきます。
たとえば社外取締役全員が子会社の取締役会で反対意見を表明し、それでもなお社内取締役の過半数で業務執行の決定を行った場合など、今後は親会社取締役の法的責任も認められやすくなるのではないかと。
そしてもうひとつの懸念事項が「監査役と社外取締役との関係」です。アスクルは監査役会設置会社なので、今後、独立社外取締役4名が選任された場合、この4名の職務執行を監視検証するのはアスクルの3人の監査役の方たちです。
たとえば(有事にあたって)少数株主の利益に最大限配慮して行動しているかどうか、中立・公正な立場で監視検証しなければ監査役自体が善管注意義務違反・忠実義務違反に問われます。したがって、平時にこそ、親子上場の利益相反状況における社外取締役の行動規範を明示することが必要ではないでしょうか。
従前のアスクル・ヤフー問題では、社外取締役と社外監査役で構成される「社外役員会」が、親会社側と対峙していたように記憶していますが、監査役は中立・公正な立場で全取締役の職務執行を監視する立場、社外取締役は体を張って少数株主の利益を守る立場、ということで、役割には微妙に差があるように思います。今後は「部分最適の中の部分最適」のような問題も発生するのではないでしょうか。
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年2月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。