なぜ企業に資金が滞留するのだろう?

日本企業の内部留保の多さがしばしば問題になります。2018年末で463兆円もあり批判が高まっています。2019年もきっと相当積み上げ、18年度末の金額をはるかに超えているものと察します。土曜日のこのブログでもお伝えしたように、前田道路は仕掛けられているTOBに対抗して預金850億円のうち535億円を特別配当で吐き出すという荒業を行いますが、そもそも道路の舗装会社になぜ、そんな多額の預金が残らねばならないのか、ここがそれ以前の疑問であります。

(前田道路株式会社HP:編集部)

(前田道路株式会社HP:編集部)

日本では新規の道路がどんどん作られる時代ではないため、多くは舗装の打ち直しが主流業務だと察しますが、そこにどんな企業投資が必要なのかといえばさほどないのだろうと思います。一方、一般的な企業経営者は常に何か新規のビジネスを考え、投資をする傾向があるのですが、手堅く公共工事で儲けていくような会社では何か新しいことをやることがほとんどないため、第一歩を踏み出せません。

ならば従業員に給与で配るか、増配するか、自社株買いをするなどの対策はあったはずなのにそれも一切しなかったのは怠慢でありました。そして今回TOBを仕掛けられたので535億円を配当で出しますというのは結局、それは使途がなかった資金であったともいえます。つまり、私から見れば経営者失格なんです。

これなどは氷山の一角であり、どこの企業もとにかく資金を抱え込みながら「良好な投資先がない」とうそぶくわけですが、それは経営者が攻めの経営ではなく、ひたすら保身的経営をし続けている結果であります。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

もともとの背景はバブル崩壊後、銀行が大雨の中、傘を閉じるという愚行をしたことで多くの企業は「自分の身は自分で守る」行動に出たことは大きいでしょう。もちろん、当時、銀行経営も大変で、銀行が倒産したり合併を繰り返したのは銀行がバブル時代に貸し付け競争に走り、与信が甘かったことに行きつきます。

さて、企業に資金が滞留しているのは日本だけではなく、アメリカでも同様で日経にはウォーレン・バフェット氏のバークシャー・ハザウェイ社の手元資金が14兆2000億円に達したと報じられています。桁が違うわけですが、報道の解説にはやはり大型買収するところがなかったため、資金の余剰が生じた、と記されています。

同社の場合は主に長期安定的な企業に投資するわけですが、昨今の株高で企業価値が割高になっていることもあり、買収案件があっても計算上、手が出せないということになっているのでしょう。この意味はプロが分析してもよい投資先はそうそうあるものではないということになってしまいます。

私はかつてあるユダヤ人の経営者から借金ができることを誇りに思え、と言われたことがあります。与信があるほど信用されることが大事なんだというわけです。彼らの考えは手元の資産を担保に借りれるだけ借りて投資を行っていくわけで私も基本的は余っている資金はない状態であります。つまり、資金ができれば何かに使っていくわけでそれが将来成長するという考え方をしています。

また資産の組み換えも当然あるわけで売買を通じてポートフォリオの入れ替えは行っています。なので私の会社には一時的な資金はあっても滞留することはあまりなく、ぐるぐる動いている状態が続いています。

北米の上場企業には特別配当と称して株主に大盤振る舞いをする会社は案外多いものです。私が投資するある会社も年4回の配当があり、利回りが年4~5%なのですが、実際には過去3年ほど別枠でほぼ毎年特配が年4~5%出るので結果として合算すると10%近い利回りになります。特配は利回りの計算上、表に現れないので特配を出しやすい投資先を探していくしかないのです。

会社は誰のもの、という立場から考えるとこのように株主に厚くする企業もあれば無配なのに役員報酬が一人数億円単位の企業もあります。もちろん従業員に手厚いところもあります。更に、北米のREITは直接的な不動産のみならず様々な派生タイプがありますが、基本的に内部留保をしないことで税制のメリットがとれる仕組みのため、投資家が資金を廻しやすくなっています。

いずれにせよ、私は企業経営者たるもの、資金を余らせてはいけないと考えています。研究開発など正当な理由がなければ、人件費、経営者報酬、株主配当、自社株買いなどで積極対応してもらいたいものであります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年2月26日の記事より転載させていただきました。