いますぐ実現可能な遠隔医療。患者相談サイトの経験から

中田 智之

新型コロナウィルスに関して、厚労省は日々情報発信に努めているようです。しかしその内容はお役所仕事の範疇であり、医療人はまだしも一般人が正確に読み解くにはハードルが高いものとなっています。

参考:新型コロナウイルス感染症について(厚生労働省)

従来このようなガイドラインは一次情報として臨床医が参考にし、現場で患者の理解力やキャラクターを踏まえてかみ砕いた説明を行うために用いるという流れになっていました。ゆえに厚労省の情報に一般人が直接アクセスするというのは、そもそも想定されていなかったかもしれません。

きなこもちさんによる写真ACからの写真

きなこもち/写真AC(編集部)

しかし駒崎弘樹氏が指摘するとおり、従来型の病院・診療所が担う「窓口型」の診療は、新型コロナウィルスによって顕在化したリスクに対応できていません。

参考:新型コロナ感染が広がってるのに、オンライン診療が事実上禁止の謎

わたしもオンライン診療は推し進めるべきという点には共感しますが、一般的にイメージされるようなテレビ電話で医師が診察するという形式とは違うものを思い描いています。

それは歯科相談サイト「歯チャンネル」の経験からです

私が歯チャンネル歯科相談室の回答ボランティアに参加し活動したのはごく短い期間でしたが、それはオンライン相談の可能性を知るためという前向きな動機と、たびたび散見する正確ではない回答に対し内情を見たいという批判的な動機からでした。

結果、ときに正確でないこともありつつも一貫して歯科医師の善意により回答がつけられており、とくに運営者の田尾耕太郎氏の志は高く、内情は当初想定したよりも良いものだったと記憶しています。(現在は回答に参加していません)

このオンライン歯科相談の体験に基づき、遠隔医療に関する所感についてまとめたいと思います。

1. オンラインでは意外と診断できない

私たちは患者さんの診断を問診だけでなく、レントゲン診や触診によって行います。患者さんの申告は断片的なことがほとんどで、検査結果を踏まえて文脈をつくり、整合性を整え、裏付けして診断し、治療法を提示しています。

つまりそれがテレビ電話に置き換わったとしても、レントゲンや触覚を封じられたままでは極めて表面的なことまでしか診断できません。

診断について責任をもちたいという気持ちが強いほど「まずは受診してください」という言葉を言いたくなりますが、歯チャンネル歯科相談室運営者からはたびたび「それではオンライン相談にならないので」というアナウンスがあったと記憶しています。

多くの場合で結局は受診するという結論る中で、かかりつけ医と乖離した見解とならないよう慎重な言い回しに努めた記憶があります。

2. 一定数の患者はドクターショッピングする

回答をしていく中で、質問者(患者)が望んでいない、むしろ失望させるような回答をせざるを得ない状況は当然発生します。その時にどのように患者が前向きに受け止め、治療につなげられるか、言い回しを考えるのは臨床医の腕の見せ所ではあります。

しかし、一定の割合で対面診断では見られないリアクションが質問者から起こるというのを経験しました。

具体的には、情報の一部を秘匿した、誘導的な再質問です。

質問者IDの管理によって再質問であることがわかる仕組みづくりはできているのですが、一部の質問者はおかまいなしに自分が得たい回答を得られるまで何度も質問を繰り返します。

このような形で回答を得ても、なにより本人のためにならないことは分かり切っています。それだけでなく回答者(歯科医師)にとっても、安易な回答は医療訴訟に巻き込まれる、リスクの高い状況であるともいえます。

オンラインということで再質問(≒ドクターショッピング)のハードルは低く、場合によっては現実に既に起こったトラブルも持ち込まれることがあります。

このような非効率的な事態は、遠隔医療の仕組みづくりの段階で想定されるべきかと思います。

3. チャットボットでよいのではないか

以上を総合すると、オンライン診療でできる診断はある程度浅いレベルのものです。一程度医学的必要性を感じるならば、検査器具が集約している病院や診療所への受診を推奨するという流れは変わらないと思います。

それでも「病院に行くか、救急車を呼ぶか、自宅療養か、セルフメディケーションするなら何を買うべきか」という判断には役にたつので、病院での対面診断は従来のまま、オンラインによる事前診断的な役割を持てるのではないかと考えています。

結果、病院や救急車といった社会的リソースの適正利用や、セルフメディケーションの推進に繋がるのであれば、大いに意義があるものと思います。

一方そのレベルの診断であれば、時給単価の高い医師が関与する必要が無いかもしれません。その段階でほしい情報というのはある程度決まっており、看護師に事前聴取してもらうことも多い部分だと思います。

実際、各自治体では受診の目安をフローチャートで公開しています。

参考:救急車を呼ぶべきか判断に困った場合

そうであれば、現状一般人が読み解くには分かりにくい受診ガイドラインに関して、医師会や学会監修のもとチェックシートや、チャットボットを作成してはどうでしょうか。

現状でもクリニックの紹介状があると二次医療機関(病院)の受診料が下がる仕組みがあるので、同様にオンライン事前診断を受けることで初診料が割引となる仕組みは作れると考えています。

参考:政府広報オンライン

その時、核心的な情報の秘匿や診断の繰り返しによる恣意的利用はかならず発生するので、スタンスとしては「ガイドラインを一般人向けにわかりやすく提供するもの、患者自身が自分で操作して活用するもの」と位置付けて、学会や現場医師、システム運営団体の責任を回避する形で導入すれば、普及が進むのではないかと思います。

今回の新型コロナ流行を機会に、利用推進のインセンティブをつける取り組みはできるのではないでしょうか。

これらの事前診断チャットボットは既に実現可能で、国内・海外での実例は多いです。

行政が主導するとどうしても分かりにくいものができあがってしまうので、開発・普及は民間主導が望ましく、医師発行のガイドラインを堅守するという大前提を守るのであれば、医師ではないプログラマーやコ・メディカルが活躍できる余地が大いにあると考えています。

まとめ

以上から、オンライン診断にかんしては無医村や来院不能高齢者などに対して対面診断を代替するものと、#7119をより発展的に代替できる簡易な無人システムの構築という2つの論点があると考えています。

オンライン診療の適切な実施に関する指針(厚生労働省 2018年)

オンライン診断に診断の役割をフルセットで与えると様々な整備が必要になるので、どの部分を先行して導入すれば社会的な問題解決に至るか得意分野を生かすのは重要だと思います。

私としてはオンライン受診推奨から遠隔健康医療相談の部分が、従来手つかずの分野で、今回の様な感染症対策にもなりうるのではないかと考えております。

中田 智之 歯学博士・歯周病認定医
ブログやアゴラで発信する執筆系歯医者。正しい医学知識の普及と医療デマの根絶を目指している。地域政党「あたらしい党」党員