民主党大統領候補指名争いは、一段と混戦の様相を呈し始めた。選挙関連情報サイトのリアルクリアポリティクスによれば、各世論調査でみた平均支持率は2019年11月に立候補した元NY市長、ブルームバーグ候補が2月19日付けで16.1%と3位に浮上。アイオワ州党員集会とニューハンプシャー州予備選で惨敗したバイデン候補の17.8%に迫る。
同氏が支持を伸ばしてきた理由は、3つ考えられる。
1つは総資産約620億ドルとも言われる資金力で、米国市民約1億人が視聴したNFLの頂上戦スーパーボウルを始め、CMを展開し民主党候補者討論会に出席せずとも、自身の選挙公約をアピールしてきた。
2つ目に、同時多発テロ事件後に就任したNY市長としての実績が挙げられ、ソーダ水販売規制強化こそ敗北したが、NY州北部にあるコーネル大学のキャンパスを市内ルーズベルト島に招致するなど経済復興に導いたほか、殺人件数の減少など治安改善を実現した。
3つ目に、中道寄りの政策があり、特に米国人の間で関心の高い医療保険では国民皆保険制度ではなく、高齢者向け公的医療保険(メディケア)やオバマケアの拡充を掲げる
しかし、ブルームバーグ氏が初めて登壇する民主党候補者討論会を控え2月18日に公表した金融改革案は、ウォール街での支持者離れを引き起こしかねない。改革案では、金融危機後に成立した金融規制改革法(ドッド=フランク法)の再建や、市場取引規制(ボルカールール)の復活を目指す。
さらに、左派プログレッシブのサンダース候補などが提唱する金融機関に対し株式や債券など取引毎に0.1%課税する金融取引税を盛り込むほか、高頻度高速取引のスピードの規制の導入する計画だ。米司法省による金融機関への取り締まりも強化し、これまで保護してたきウォール街に反旗を翻したかのようだ。
各候補の主な選挙公約、早見表
税制案も、株式市場を中心にウォール街にとって悪材料である。同案の柱が、トランプ政権で成立した税制改革法の巻き戻しであるためだ。法人税は、バイデン候補の案に倣い現行の21%から28%へ引き上げ、所得税も最高税率を現行の37%から39.6%へ引き上げる。1年以上保有した株式に対するキャピタルゲイン税の税率は現行で最大20%(独身世帯で43万4,551ドル以上)だが、100万ドル以上の富裕層には所得税最高税率の39.6%を適用へ。また、相続税において資産の値上がり分は完全に非課税対象だったが、これを撤廃し法の抜け穴を塞ぐ。
米国長者番付8位のブルームバーグ氏は、富裕税も盛り込んだ。年収500万ドル以上を対象に、5%課税する方針だ。年収に掛かってくるため、5,000万ドル以上の純資産を有する富裕層に対し2%、10億ドル以上に6%課すウォーレン案(10年間で2.75兆ドル)、純資産3,200万ドル以上(夫婦)の富裕層に段階的に1~8%課すサンダース案(同4.35兆ドル)より穏健とされる。
ブルームバーグ氏がウォール街への規制強化の立場に転じたとはいえ、バイデン候補に勝ち目がないと判断した中道派富裕層が彼らにとって最悪の事態を回避すべく、元NY市長に乗り換えたとしてもおかしくない。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2020年2月26日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。