切実な介助者不足を打破したい!岐阜初⁉︎学生ヘルパー育成PJ始動‼︎

先輩ヘルパーさんの口文字を熱心に見学する学生さん

ALS患者を何人も見て来たベテランヘルパーさんが私のケアの見学に来ていた看護学生さんにこんな話をしていました。

「ALSは私たち介助者次第で患者さんの生活を変えられる病気なの。」

まさにALSの真理を突いた発言です。おっしゃる通り、私はALSであること以外どこも悪くないのです。血液検査をしても、いつも往診医に「私よりずっと良い結果だよ!」と笑われます。

確かに現在の医学ではALSは治せません。しかし私は人工呼吸器をつけた今、健康そのものです。余命宣告もなければ手術する必要もありません。ただ動けなくて喋れなくて、胃ろうと人工呼吸器のお世話になっているだけなのです。目も見える、耳も聞こえる、甘い辛い痛い痒いもわかる、思考力・判断力・記憶力も全く衰えていません。

もちろんなんらかの合併症を併発するケースはありますが、ALS自体の症状では人工呼吸器をつければ決して命は奪われません。文字通り、喋れない患者とコミュニケーションがとれ、動けない患者の代わりに動いてくれる介助者がいれば、普通に生活を送れるのです。更に介助者のスキル次第で、患者はいくらでもやりたいことが出来るようになります。

しかしながら、現在のところ日本のALS患者の約7割が人工呼吸器をつけずにあの世に旅立つ選択をしています。理由は医療従事者の知識・説明不足もあると思いますが、最大の理由は圧倒的な介助者不足及び「介護は家族がするもの」という暗黙の風習です。自分が生きることで家族に物凄く負担をかけるのがわかっているから死を選ばざるを得ないのです。死にたくて死ぬ人など誰一人としていません。

そんな状況を見かねて、私の師匠であるALS患者(元日本ALS協会会長)岡部氏が「このプロジェクトが実現したら思い残すことはない!」と言ってまで立ち上げたのが『NPO法人境を越えて』です。

境を越えての最大の目的は、介助者不足の現状を打開することです。具体的には介助者の発掘・育成・定着を障害者当事者と共に考え、サポートするという取り組みです。私は岡部氏より、岐阜県で当事者としてプロジェクトに参加して欲しいとお声掛けを頂きました。

具体的に目をつけたのは岡部氏も活用している『学生ヘルパー』です。学生ヘルパーとは医療系・福祉系の大学や専門学校の現役の学生に、重度訪問介護の資格を取得してもらってヘルパーとして働いてもらうというスキームです。首都圏の活動的なALS患者の多くは学生ヘルパーを活用しています。もしこのスキームを地方都市である岐阜県で実現出来れば、全国展開可能な介助者不足解消の一つの手段になり得ると私は睨んでいます。

学生ヘルパーとはいわゆるWIN-WINのスキームだと私は思います。

○学生側のメリット
・将来の職種に直結する生の現場体験が出来る
・現役の医療従事者とつながりが持てる
・アルバイトを欲している
○患者側のメリット
・若いゆえに、積極性・行動力・探求心・吸収力・拡散力が高い
・最も人不足の、土日や深夜帯への派遣が期待出来る
・先輩後輩の関係で継続性が期待出来る

私は介助者発掘の足掛かりとして、某大学の看護学科の学生向けに講義を行いました。講義の内容はALSの実態や私に入っている訪問看護師さんの紹介を通して、当事者として看護師に求めることや私の人生哲学などをお話しました。そのあとに『障害者の世界に留学しませんか?』というチラシを配布しました。

それに対して学生5名が応募してくれましたが、3年生は病院実習の真っ最中なのでなかなか見学の時間を取るのが難しそうでした。その中で比較的時間の融通がきく2年生の中に、一人とりわけ積極的な学生さんがいました。彼女は講義後に涙を流しながら私に「感動しました!」と話かけてくれた学生さんでした。加えて彼女は私の高校の後輩でした。地元に住んでいれば世間は狭いものです。

彼女は大学が春休みになるやいなや、私に空いてるスケジュールをメールしてきて、見学希望の意思を伝えて来ました。2月は5回来てもらい、私とのコミュニケーション手段である『口文字』をマスターし、私の仕事である講演にも同行してもらいました。水を得た魚のように積極的に笑顔で全てを吸収して行く彼女を見て、岐阜県学生ヘルパー第一号は彼女しかいないと私は確信しました。

学生ヘルパーを育成するにあたって、岡部氏より厳命されていることがありました。それは学生を預かる上で、我が子のように扱うことです。私のような重度の障害者のヘルパーをすることは、万が一の場合に命を預かるということです。私は万が一のことが起きても、故意ではない限り一切責任は問わないという同意書を学生と取り交わす予定です。相手は未来ある学生さんです。万が一のことが起きれば学生さんの心に一生残る傷を背負わせることになります。学生さんを全力で守る覚悟が必要となります。

今後の学生ヘルパープロジェクトの進捗にご期待ください。この一歩は大いなる一歩になると信じています‼️

恩田聖敬


この記事は、株式会社まんまる笑店代表取締役社長、恩田聖敬氏(岐阜フットボールクラブ元社長)のブログ「ALSと共に生きる恩田聖敬のブログ」2020年3月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。