東京新聞の望月衣塑子記者の自伝的著書を原案にした映画『新聞記者』が6日、日本アカデミー賞の作品賞、主演男優賞、主演女優賞の主要3部門を総ナメにしたことで、先週末のネットは波紋が広がった。安倍政権のアンチや左派系の人たちを中心に「祭り」となる一方で、安倍政権の支持者が多い右派の人たちからは「なんやねんこの茶番劇は」「これでは“赤”デミー賞」といった反発が巻き起こるという分断となった。
『新聞記者』の受賞に反発を招いているのは、原案の望月氏の日頃の言動や、内閣情報調査室の暗躍が描かれるなど政治的な理由もあるが、本当に「ヒット」作だったのかという疑念も大きいからだ。
『新聞記者』は配給が大手ではないスターサンズで、興行収入(2019年)という客観的な数字でみると、4.8億円にとどまり、昨年公開された実写映画の中では、『キングダム』(57.3億円)、『マスカレード・ホテル』(46.4億円)、『翔んで埼玉』(37.6億円)などと比べても桁違いに見劣りする。
また、近年の日本アカデミー賞の作品賞を受賞した作品(興行成績は各前年)と比べても、
- 『万引き家族』(2019年)45.5億円
- 『三度目の殺人』(2018年)14.6億円
- 『シン・ゴジラ』(2017年)82.5億円
- 『海街diary』(2016年)16.8億円
- 『永遠の0』(2015年)87.6億円
などとなっている。ネット上では「反望月」派の人たちから
誰も見ておらず、興業収支もフィクションに基づいた映画
といった辛辣な声もあるが、『新聞記者』を観た人はこれらの作品を劇場で観た人は少ない中での「抜擢」だったことには間違いない。
興行収入が全てではないが、ノミネートされた作品の中でダントツに興収が少なかったのにとは思いますね。
というように、冷静に疑問を持った人も少なくないといえる。
映画ジャーナリストの斉藤博昭氏はヤフーニュース個人への寄稿で、
2013年の最優秀作品賞『永遠の0』は、「戦争を賛美する」という批判も上がった作品であり、日本アカデミー賞が極端な思想に支配されているとは、どう考えても的外れである。
と指摘した上で、
もともと作品の質だけでなく、ある程度、話題性も重要視されるのが日本アカデミー賞である。
との見方を示した。ただ、斉藤氏は同時に、歴代の日本アカデミー賞作品賞受賞作が、評論家が選定するキネマ旬報日本映画ベスト・テンの年間順位と比較もしており、この中では『新聞記者』が11位と、プロの目からすればトップテンにすら入ってなかった事実も浮き彫りになった。
また、過去5年の作品に限っても、3作品で是枝裕和氏がメガホンを取っている。是枝氏はヴェネツィア国際映画祭やカンヌ国際映画祭でも受賞歴を持つなど、日本を代表する映画監督であることに間違いはない。
しかし、2018年に『万引き家族』がカンヌでパルムドールを受賞した際には、政府から文科省に招いて祝意を伝えたいと打診されたことを断ったため、「安倍政権への批判ではないか」と物議を醸した経緯がある。
いずれにせよ『新聞記者』が異例ずくめで選定された背景に「反安倍政権」的な政治的な動機があったのか明確にはなっていないものの、さまざまな政治的意見を持つ映画ファンの間でも賛否が分かれ、日本映画界に政治的分断の影を落としたことには違いない。