合議で投資判断はできない

投資判断は、いかに合理性を追求しても、不確実な未来に賭ける要素を払拭し得ない。年金基金等の機関投資家は、組織の意思決定機関をもつから機関投資家と呼ばれるのだが、さて、賭けを機関の合議で決めることができるものか。そもそも、一般に、集団で論じて具体的な結論を得ることができるのか、合議による決定とは何か。

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機関の役割は、自明のこととして意思決定にあるとされているのだろうが、確かに形式的には意思決定だとしても、実質的には単に手続きにすぎないわけである。つまり、組織とは責任の階層化なのであって、実質的な議論と決定は、組織の頂点にある機関ではなくて、現場においてなされ、機関は単に現場の決定を組織の責任に吸収するためだけにあるのである。

例えば、米国の年金基金等の機関投資家では、組織の頂点には必ず決定機関が置かれていて、その下に、資産運用の専門家で構成され、最高投資責任者が統括する運用組織があるわけだが、運用組織は大きなものではなく、専門家としての知見の統一があるので、意思決定は、最高投資責任者のもとに、組織構成員の能力に応じた責任の配賦によって統括されていて、業務の運行のなかで自然になされるのである。

問題は最高決定機関における承認のあり方である。形式は決定でも、実態は承認である。機関は、例えば地方公務員の年金基金であれば、その地方政府の幹部等で構成されていて、専門的知見をもたないわけだから、そこで専門性を要する資産運用の判断を実質的に行うことは不可能であって、むしろ、牽制と統制の機能に徹していると考えられるのである。

事実上の決定は、下部の運用組織のなかで、専門家の判断として既になされている。しかし、それらの判断は、組織統制の問題として、機関決定を経ない限り、執行できない。逆に、機関決定を執行の条件とすることで統制と牽制の機能を組み込むこと以上には、機関の役割はないのである。

そもそも機関の合議によって投資の意思決定をすることなど不可能である。機関にできることは、現場において議論が尽くされて事実上の決定がなされた事案について、承認するか、否決するか、その選択をするだけである。そして、事案に重大な瑕疵でもない限り、否決されることは想定されていないのである。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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