新型コロナウイルスは欧州全土を席巻してきた。欧州諸国の中でもイタリアは、新型肺炎の発祥地、中国武漢市を除くと、最大の感染国となっている。14日時点で感染者数は2万1157人、死者は1441人だ。
当方はこのコラム欄でイタリアの最大感染地、北部ロンバルディア州のベルガモ市の知人とのインタビュー記事を掲載した。ベルガモ市は人口約12万人の小都市だが、感染者数では同州でも最も多い(「移動禁止のイタリアに緊急インタビュー」2020年3月12日参考)。
知人からのメールによると、会社に通う時と日常品を買うためにしか外出できず、それ以外で外出した場合、路上を警備する警察官から尋問され、最悪の場合、処罰を受けるという。
知人の話によると、高齢の方が体調が悪くなって医者を呼んでもなかなか往診に来てくれないとのこと。新型肺炎の急速な拡大でベルガモ市の医療体制は完全に崩壊している。市民だけではなく、新型肺炎の治療のため医者たちも体力の限界まで働いている。
イタリアから暗く、重いニュースが多い中、2つの心温まるニュースが流れてきた。一つはこのコラム欄でも少し報じたが、自宅にいる子供たちが感染リスクの高い祖父母を訪問できない代わりに、「おばあちゃん、おじいちゃん、全て良くなるよ」(イタリア語 Andra tutto bene )というメッセージを窓から垂れ幕や絵に描いているというのだ。その話がフェイスブックで紹介されると、イタリア全土に感動を呼んでいる。欧州のメディアも英紙ガーディアンやオーストリア代表紙プレッセが写真付きで大きく報道していた。
もう一つは今回、初めて紹介する話だ。「バルコニー・コンサート」だ。外出できずに自宅にいる人々がバルコニーに出て国歌やカンツォーネを歌い、若者は窓から顔を出してギターを弾く。それを聞いた近所の人がバルコニー越しに流れてくる歌に合わせて一緒に歌いだす、といった光景がTVのニュースで流れた。音楽の都ウィーンでは路上芸人や音楽学生たちの「路上のコンサート」が至る所でみられるが、イタリアでは「バルコニー・コンサート」が広がっている。
イタリア人は外出を好む。家族や友人たちと集まって食事をしながら談笑することをこの上なく愛する国民だ。外出するな、家に留まれ、ソーシャル・コンタクトは最小限に、といった新型肺炎感染防止策は多くのイタリア人を苦しめている。自宅にいても落ち着かない。誰が最初にバルコニーで国歌を歌いだしたかは知らないが、「バルコニー・コンサート」の歌声はあっという間に広がっていった。バルコニーから歌手やギタリストが飛び出してきたのだ。
オーストリア国営放送の夜のニュース番組は、隣国イタリアの老夫婦が国歌を口ずさみ、踊り出す光景を映し出していた。サッカー試合でイタリアの国歌が競技場一杯に響き渡るシーンは何度も見てきたが、町のアパートのバルコニーから国歌が流れてきた光景は初めて見た。
イタリアは新型コロナウイルスの襲撃をもろに受け、苦境下にあるが、天性の明るさで国難を必ず乗り越えると信じている。「全て良くなるよ」運動や「バルコニー・コンサート」は新型肺炎と戦う他の欧州の人々にも大きな励みと笑顔を提供している。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年3月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。