「現金は王様だ(cash is king)」――アメリカ人の脳裏に、この言葉が燦然と光を放っているに違いありません。
新型コロナウイルス感染拡大を受け、NY州を始め全米各地で休校措置や在宅勤務措置が講じられていますよね。FOMCがゼロ金利と量的緩和の再開を決定した15日夜には、米疾病対策センター(CDC)が、全米で50人以上が参加するイベントを8週間にわたって中止するよう要請しました。
封じ込めゾーン設定や外出禁止が囁かれるなか、米国人の富裕層は静かに、そして着実に外出自粛に備えています。備えとは、現金引き出しです。結果、マンハッタンは52丁目とパークアベニューに建つバンク・オブ・アメリカの支店で100ドル紙幣が不足する事態が発生。JPモルガン・チェースでも13日までに顧客から数多くの現金引き出しのリクエストを受け、パンク状態だったといいます。しかも、彼らの引き出し希望額は数万ドル=数百万円単位だったのですよ。
ATMでの現金引き出し限度額は概して500ドルから2,500ドルのところ、支店での引き出しに限度額はありません。だからこそ、富裕層が支店に殺到したわけです。とはいえ、支店が保有する現金はセキュリティ上、限りがありますから突然現れて多額の現金の引き出しを求めても、応じられないケースが多い。だからこそ、事前に連絡を取るべしと推奨されています。
Fedが流動性供給拡充措置を決定した背景には、富裕層を始めとした現金引き出しニーズのが高まりがあったことでしょう。1997年のヒット曲”It’s all about Benjamins”が頭に浮かんだのは、筆者だけではないでしょう。
ちなみにNYの富裕層はマンハッタンが移動制限・店舗閉鎖に直面するリスクに備え、マンハッタンの北東部に横たわるイースト・ハンプトンなど避暑地ハンプトンへ移動中だとか。そのイースト・ハンプトンの家計所得中央値は2017年時点で10万3,269ドルと、全米中央値の5万9,039ドルを大幅に上回ります。それもそのはず、セレブリティが別荘を保有していることでも知られますものね。
例えばアカデミー俳優のロバート・デ・ニーロ、映画「アイアンマン」シリーズでお馴染みロバート・ダウニー・ジュニア、歌姫ビヨンセとJay-Z夫妻、CNNの名物司会者アンドリュー・クーパーなど。マンハッタン脱出に成功した彼らが快適な自粛生活を過ごす上で、せめて現金をたっぷり使ってくれれば良いのですが。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2020年3月16日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。