新型コロナをめぐる議論で「韓国では片っ端からPCR検査をやったために患者が病院にあふれて医療が崩壊した」と言われることがある(私も言ったことがある)が、これは本当だろうか。
韓国で集団感染が起こったことは事実だが、その半分以上を大邱市の新興宗教「新天地イエス教会」の信者が占めていた。これに対して韓国政府は、希望者すべてにPCR検査を受けさせ、感染者は激増して8000人以上になったが、新規患者数は図のように3月上旬でピークアウトし、最近は退院が入院を上回っている。
新型コロナの感染で問題なのは感染者の数ではなく、人工呼吸器の必要な重症患者の数である。これでみると韓国の重症患者は59人で日本と大して変わらず、ICUベッド数5300に比べて十分余裕がある。
一時は患者が病院にあふれたが、ソウル市などに搬送された。患者の発生が大邱市に集中していたので、全国でベッドが足りなくなって重症患者が死亡するという状況にはなっていない。つまり韓国で医療は崩壊していないのだ。
これは本当に医療の崩壊したイタリアとは大きな違いである。イタリアではこの表のように重症患者は2498人だが、ICUベッドは約4000。その多くがコロナ以外の患者で埋まっているので、重症患者を収容しきれない。これはイタリアの財政危機を救済するとき、EUが医療費の削減させた影響もあるという。
問題は「重症患者数」を医療インフラの制約内に収めること
日本政府の専門家会議は「実効再生産数が1を下回る」という注目すべき結果を出した。つまり日本でも新規感染者が減っているのだが、今後も警戒が必要だという。その基準は感染者数でも再生産数でもなく、
重症患者数<ICUベッド数
という不等式が満たされるかどうかだけである。風邪はいずれ直るが、肺炎になって人工呼吸器がないと死亡するからだ。この基準でみると、フランスでは重症患者数1122人に対してICUベッド数は約6600、スペインでは重症患者939人に対してベッド数3600で、上の不等式は成り立っている。
もちろんコロナ患者ですべてのICUを占拠するわけにはいかないが、医療が崩壊しているわけではない。確かに感染者数は指数関数的に増えているが、それは問題ではない。重症患者がすべて ICUに収容できればよく、その条件は韓国でも(イタリア以外の)ヨーロッパでも満たされているのだ。
再生産数が1を下回った日本でそれが爆発的に増えることは考えにくく、韓国をみても感染者数が単調に指数関数で増えるわけではない。だが最悪の場合を考えたとしても、必要なのは感染者を減らすことではなく、重症患者数を医療機関の制約内に収めることである。
これは医療インフラに余裕のある日本ではむずかしくない。専門家会議が先月出した方針に従って、感染をなだらかにしてピークを遅らせればいいのだ。イベント自粛や一斉休校はやめるべきである。
この点は専門家会議でも議論がわかれたようで、 提言では「イベントの主催者にはリスクを判断して慎重な対応が求められる」という玉虫色の表現になっているが、新規患者の減っている日本でイベント自粛を続ける理由は見当たらない。
政府はコロナ対策で大型の経済対策を検討しているようだが、何よりも効果的な経済対策は、無意味な自粛から撤退し、経済活動を正常化することである。