コロナ非常措置発動前にマドリード市民の取った無責任な行動

白石 和幸

3月19日午前の時点でスペインにおける新型コロナウイルス感染者は17147人、死者767人。1週間前と比較して1万人感染者が増加したことになる。イタリアに次いでヨーロッパで2番目に感染者の多い国となっている。

筆者も不要な外出禁止に…スペインの今

スペインでは今、バレンシア市内から36キロ離れた町に住んでいる筆者も含め不要な外出は禁止されている。外出できるのは次のような理由によるとされている。

ロックダウン中のバレンシア市内(3/17時点:kimoco88/flickr)

勤めに出かけること(但し、自宅勤務ができる場合は政府はそれを勧めている)。食料品の買い物。薬局に薬を買い求める。病院に行くこと。老人、幼児並びに身体不自由者への世話。銀行に行くこと。これら以外に、犬を散歩させることやパン屋、キオスクに行くことなどは許可されている。

ジョギングや自転車に乗ってのスポーツ活動は一切禁止されている。

また、スーパーに入る時や銀行の自動引き出しの場合に並ぶ列は最低1メートル間隔を保っている。複数で同時に入ることは控えるように指示されている。

教会は閉めているが一定の規則を開いている時もある。また結婚式など祝賀会や葬儀も参加者が固まることがないように一定の規定が設けられた。しかし、この時点になって結婚式などを挙げるカップルはまずいない。

レストラン、バー、劇場、映画館などは全て閉まっている。多くのスペイン人にとってバーで仲間が集まっての談笑はストレス解消の場であるが、それも2週間できなくなってストレスがより鬱積して行くことになる。非常事態は2週間と予定されているが延長されるのはほぼ確実と見られている。

禁止された事項を守らない場合は最低100ユーロ(12,000円)から1年の禁固刑まである。

一部住民がリゾート地に事前に脱出

政府が一つの山場と見ているのは3月25日。この翌日から感染者の毎日の増加が観られなくなるはず、と保健省は予測している。(参照:elpais.com

今回の非常事態には保健省、国防省、内務省、国土運輸省の4つの省が事態をコントロールするとし、最終の決定はサルバドール・イーリャ保健相に依存するとした。

スペインの感染者の半数が検出されているマドリード州では3月9日から当初2週間の予定で全ての学校が休校となった。現在はスペイン全国で休校となっている。当初、マドリードの住民はいずれイタリアのロンバルジア州のように封鎖されるようになると考えて多くの住民がその前にマドリードからの脱出を始めたのである。

彼らの多くが向かう先はバレンシア州とムルシア州であった。地中海のリゾート地をめがけたのである。いい迷惑を被ることになるのはバレンシアとムルシアの住民であった。何しろ、彼らがコロナウイルスをもって来る可能性が高いからである。

感染者の老夫婦が逃避先でとった行動

カルタヘナ(Paolo Margari/flickr)

そして案の定、その通りとなった。例えば、マドリード在住の夫が88歳の老人夫婦はムルシア州の都市カルタヘナまで列車タルゴで向かった。そこからリゾート地までタクシーで向かった。彼ら夫婦の息子はコロナウイルス感染者だった。にもかかわらず、この夫婦はマドリードを脱出を試みたのであった。

タルゴの中で既に咳と微熱があったそうだ。それでもリゾート地に着くとマートを訪問して数店で色々と買い物をした。

時間の経過とともに夫は気分が悪くなり自分の足でロス・アルコス病院に行った。診察の結果、コロナウイルスに感染していて肺炎に罹っていることが診断された。その間も彼の夫人は診察されるのを拒否してカフェテリアに行く始末。

警察は事情を解明して、同じタルゴに乗っていた乗客200人の身元を確認する必要に迫られた。彼らが感染しているか否か検査しなければならないからだ。また、彼らを乗せたタクシーの運転手の身元も突き止めた。同じく、最低2週間は自宅に留まって外出しないように要請せねなばらなくなった。この老夫婦の無責任な行動で多くの人が迷惑を被ることになった一例だ。(参照:elespanol.com)。

また、ムルシア州出身の27歳の女性は赤ん坊を連れてつい先日マドリードを訪問したが、戻った時には赤ん坊が感染していた。

キレた州知事「バケーション気分で無責任」

ムルシア州の各リゾート地で観光客がセカンドハウスとして生活する地域に対してフェルナンド・ロペス州知事は監禁の特例を発動した。実際、同州での感染者が数日で急増したのだ。同州知事は「外出せずに(マドリードの)自宅に留まって自ら隔離しなければならないのに、ムルシアにまで来て(セカンドハウス)そこをあたかも自宅のようにしてバケーション気分で彼らは生活しようとしている。残念で無責任だ」と不満を強く表明した。(参照:digitalsevilla.com

ムルシア州のロペス知事(州サイトより)

バレンシア州でもシャビア、ガンディア、クリェアラ、ベニカシムなどのリゾート地ではマドリードからの訪問者が目立て増加。

マドリードから到着したある若夫婦(匿名希望)の場合は学校が休校になって最初の3日間は自宅にいて外出を控えていたが、同じことをリゾート地ですることを決めて移動したという。しかし、仮にこの家族のだれかが兆候はまだ表れないが感染していれば、彼らがリゾート地に来るまでに接触した人に感染させたかもしれない。(参照:madridiario.es

ガンデイア自治体はビーチを立ち入り禁止にしたそうだ。非常事態にあるということをマドリードからの訪問者に知ってもらうためだという。同地のスーパーでも「いつもは品切れすることがないのに、(マドリードの料理コシードに使う)鶏肉が不足していた」と語ったのは同地に長く住んでいるマドリード出身のミゲアンヘルだ。

移動制限も続く感染者増

バレンシア州のモニカ・オルトゥラ副州知事は、マドリードからバレンシアとアリカンテ行きの高速列車の一時運行中止を主張した。彼女は「マドリードから来る人が感染しているという意味ではない。しかし、事態は深刻で、人の移動を避けるように要求されている時に、それをバケーションであるかのような気分でいる」と述べて、バレンシア州ではマドリードからの訪問者が増えることに警戒感を強めていることを彼女が代表するかのように表明したのであった。(参照:madridiario.es

実際、高速列車の本数は非常事態が発動されてからは、従来の本数から50%に削減されている。それは全国レベルで実行されている。しかも乗客数(スペインは全車指定席)も3分の1に制限して乗車させている。

特に、オルトゥラ副州知事が当初からこのような要求をし易すかったのも、スペイン政府の国土運輸相はバレンシア出身の社会労働党の議員で、バレンシア州政府も彼女の政党コンプロミスと社会労働党による連立政権という因縁関係からであった。

結局、オルトゥラ副州知事の懸念が的中して、そのあと数日でバレンシア州の感染者は3倍に増加した。(参照:elconfidencial.com

スペインでは今、誰もが毎日、不安に包まれて生活しているのが現状だ。