イタリア政府は19日、新型コロナウイルス(covid-19)による感染者は4万1035人、死者は3450人となったと発表した。新型肺炎の発生地中国の3245人を上回り、死者数は世界で最多となった。時間の問題とみられていたが、そのニュースを聞いた時、新型肺炎で苦しむイタリア国民の苦境を思い、心が痛くなった。
イタリアの最大感染地は同国北部ロンバルディア州だ。その州の中でも人口12万人の小都市ベルガモ市(Bergamo)の感染者数が最も多い、どこの誰が言い出したのかは知らないが、武漢のような大都市ではないベルガモが「イタリアの武漢」と呼ばれ出した。
同市の医療は崩壊し、重症者を収容するベッドはなく、感染者がまだ少ない南部州に患者を転送するなど、対応に苦しんでいる。ベルガモ病院の医者が、「ベルガモを助けてほしい」と緊急メッセージをソーシャルネットワーク(SNS)で発信していた。防御服が限られ、医療器材が不足して、重症患者を治療できない医者の苦しさを訴えていた。
死者を埋葬する墓地の場所もなくなり、軍隊が遺体を南部州に運ぶ一方、遺体をまとめて火葬せざるを得ない状況だ。ベルガモはローマ・カトリック教会の信者が多く、遺体は本来、埋葬することになっているが、その場所も時間ももはやなくなってきたという状況だ。
ベルガモにはローカル新聞があるが、新型肺炎で亡くなった市民の訃報欄が10頁にもなるという。紙面には新型肺炎の犠牲者の写真が載せられ、それを読む市民の心を揺さぶっている。
ローマ・カトリック教会の最高指導者フランシスコ教皇はイタリア日刊紙ラ・レプッブリカとのインタビューの中で、新型肺炎で苦しむイタリア国民への連帯と隣人愛を説き、「私は主に、この伝染病を一刻も早く終わらせてくださいと祈った」と述べている。18日付のバチカンニュースが報じている。
間もなく、キリスト教会の最大の祝日、復活祭(イースター)が来月12日訪れる。イエスが人類の罪を背負って十字架で亡くなったが、その3日後に復活したことを祝う日だ。
新旧キリスト教会、正教会の全キリスト信者たちが祝う日だが、2020年の復活祭はどうなるだろうか。バチカンのサンピエトロ広場で世界から集まった信者と共に復活祭を祝うことは難しくなった。バチカン宮殿内で行われ、その様子を世界の信者たちはオンラインで共有することになるだろう。ベルガモ市民は今年の復活祭をどのような思いで迎えるだろうか。突然、新型肺炎で亡くなった祖父母や兄弟姉妹のことをきっと思い出すだろう。
当方は2013年9月、ベルガモ郊外にあるヨハネ23世(在位1958年10月~63年6月)の生家を訪れた時、多くの巡礼者に出会った。ポルトガルのファテイマの聖母マリア降臨地でもそうだったが、巡礼者、病に悩む人、病人を抱える家族たちが奇跡を求めて巡礼地を訪ねてくる。ヨハネ23世は教会の近代化を推進させた第2バチカン公会議の提唱者だ。
聖ヨハネ23世の生家には同23世の銅像があるが、その銅像の手、唇周辺は色が剥げている。その訳を関係者に聞くと、「巡礼者たちがヨハネ23世に触れば病が癒されると信じて、ヨハネ23世銅像の手や唇を触るから、そこだけ色が剥げてきたのです」という。
新型コロナ肺炎に苦しむベルガモ市民は市が封鎖された今日、もはや外出ができないから、この伝染病が一刻も早く終息することを家で祈っているだろう(「『聖人』と奇跡を願う人々」2013年10月2日参考)。
当方はベルガモには多くの知人、友人がいるので、彼らの動向を心配している。ベルガモの現状は目を覆いたくなるほどだ。「あのベルガモが新型肺炎のイタリア最大の感染地となった」という事実が今でも理解できない。どうして、なぜ、という思いが湧いてくるのだ。
市内で会社を経営するカルロ・ツォナト氏は、「新型コロナウイルスは我々のライフスタイルを激変させるだろう」と述べていた。ベルガモ市民が新型肺炎の試練を乗り越え、温かい太陽の日差しを受けながら市内を自由に散歩できる日が早く到来することを願っている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年3月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。