コロナショック、ゲストハウス完全崩壊…観光業発の地価暴落シナリオ

村山 祥栄

観光業発の不動産暴落シナリオの可能性

コロナショックで連日各国の入国制限が発表され、自粛ムードは世界全土へとその広がりを見せている。金融から製造業に至るまでほとんどの産業がその打撃を受け、原油安が追い打ちをかけ、遂に日経平均は17000円台を割り込むなど世界的株安に突入、その猛威は留まるところを知らない。

19日に今年の最安値を更新した日経平均株価(NHKニュースより:編集部)

そんな中、3月18日国交省は1月1日時点の公示地価を発表した。前年度と比べて上昇が著しいのが、沖縄(13.3%)、京都(8.1%)、大阪(7.7%)、東京(7.2%)、福岡(6.7%)(いずれも商業地)と続く。

しかし、コロナの影響は不動産にも大きな陰りを見せる。東京都心の空室率は過去最低の1.49%と近年の景気と相まってオフィス需要も高かったものの、景気の減退感は依然強く今後の需要予測は厳しいものとなりそうだ。併せて急激な株価の下落に伴い富裕層向け物件も手仕舞いの方向へ向かうとの見方だ。

それ以上に注意を払うべきは、観光産業の凋落だ。ここ数年、地価の上昇を後押ししてきたのは間違いなくホテル需要であり、宿泊客の激減が地価下落に大きな影響を及ぼすことは必至だ。

上記の地価上昇ベスト5をご覧頂いてもわかるが、これらの都道府県はいずれも観光需要にけん引されてきた土地ばかりである。コロナの蔓延は、ホテル出店が止まるだけなく、撤退戦を余儀なくされ、観光産業発の地下暴落というシナリオが現実味を帯びてくる。

コロナショックの影響を最も受けている、落ち込みが著しい産業が観光だ。

今日に至るまで日本の次のソフトパワーの担い手として期待されてきた観光業が脚光を浴び、手っ取り早く観光事業へ進出できる宿泊事業は特に成長が著しい分野で、その中でも特に急拡大していったのが民泊、ホステルやゲストハウスといわれる簡易宿所だ。

その象徴的エリアとして、全国の注目を集めてきた京都の現状を見ると、その予兆を感じざるを得ない。

簡易宿所半数が廃業を視野に

3月16日、京都簡易宿所連盟が発表した事業者アンケートは衝撃的な結果だった。3月のホテルの稼働率は20%以下のところが全体の半数近くを占め、40%未満を加えると加盟事業者の8割近くに上るという。2月と3月を比べると、対前年比60%以上減が2月は34%だったのに対し、3月は62%にまで拡大している。

さらに、今後も宿泊事業を継続すると答えた事業者は4割に留まり、既に事業を廃止、検討、またその可能性を抱えていると答えた事業者は全体の38.6%、業態転換の決定、検討、可能性を抱えている事業者が18.7%と過半数が簡易宿所の事業継続ができなくなる可能性を示唆している。

※画像はイメージです(umii/写真AC:編集部)

京都の簡易宿所は、宿泊施設不足を背景に、2014年に460施設2929客室だったものが、4年で急増し、2018年には2990施設12539室にまで拡大していた。今年1月時点で3290施設(客室数未発表)と公表されているところから見るに、約半数近い1500施設が廃業の危機を迎えているとみていい。

京都市内の売り上げ減に苦しむ宿泊施設による疲弊はとっくにビジネスとしての限界を超えている。宿泊予約サイトで京都を検索すれば2、3000円どころか、1000円以下のたたき売りに近い値段が出てくる。さらに地元向けサービスに身を乗り出すところも増えた。

二条城近くにあるスズキゲストハウスでは、驚愕のお昼寝プランを売り出している。昼寝2時間、ラウンジ利用(21時まで)、コーヒー一杯付、アイククリームサービス、さらに近所の銭湯入浴券がついてなんと驚きの1500円だ。

それだけでなく、地元住民をターゲットにした特別宿泊プラン、デイユースプランなど様々な対応で何とか売り上げ確保に走る姿が見える。創意工夫と経営努力で乗り越えるか、はたまた資本力で耐え凌ぐか、さっさと業態転換を図るか、いずれも取れない事業者は容赦なく退場を余儀なくされる。

そして、退場を余儀なくされた物件が大量に市場に流通する日は近い。

インバウンドリスクはコロナだけじゃない

そもそも、なぜこんな事態に陥っているのだろうか。

筆者は、京都市内で議員をやっていた関係から、この数年多くの方から民泊や簡易宿所事業の見通しや事業の相談を受けてきた。当時話題になっていたのは、需給バランスの話ばかりで、「今から始めてもまだ間に合うか?」「今後の需要見込みはどうなるのか?」という質問が多く、大半の方が事業のリスクは宿泊客の減少および供給過多だと思い込んでいた節がある。

その後、簡易宿所は京都市が運用ルールを改正し(宿泊施設に対し、管理人の24時間常駐がルール化)、事業者は事業計画が大幅に狂い、事業を断念、業態転換が相次いだ。こうした行政の運用ルールが変わることは大変お気の毒だと思うが、そもそも新規参入の事業者がインバウンドの本質を正しく理解されていたかと思うとかなり疑問がある。

かねてから指摘をしてきたが、インバウンドというのは非常に脆弱な基盤の上に立っている。つまるところ「風評産業」の極みだ。SNSで魅力的な風評が立てば山のように人が押し寄せるが、マイナスの風評が立てばその被害をもろに受ける。

コロナ騒動前は多くの外国人観光客でにぎわった祇園の花見小路通(Wikipedia:編集部)

まさか世界中がこんな事態になるとは思わなかったと誰がも思っているし、筆者自身、東京オリンピックの開催が危ぶまれるとは思いもしなかった。しかし、コロナウイルスだけでなく、様々なリスクが伴うことはこれまでの荒波を乗り越えてきた観光事業者にとっては常識だったはずで、新規参入者はそれを理解していなかったむきが強い。

かつて京都では、昭和50年代、観光寺院に課税をするという大胆な政策「古都税」を巡り観光寺院が軒並み拝観を停止をはじめ観光客が激減、観光産業は悲鳴をあげた。観光業界はその窮状を京都市に訴え、「なんとかしてくれ」と詰め寄り、結局その圧力に耐えられず前代未聞の条例撤回にいたった。一部の寺院が閉門するだけで、京都市の観光産業はたちどころに観光産業は立ち行かなくなる。

その後も、阪神大震災、京都発の鳥インフルエンザ、リーマンショック、東北大震災と幾度と観光客の激減期を経験している。現在は、コロナウイルスに伴う自粛ムードと政治判断が世界的に観光客の激減につながっているが、実は天変地異以上に政治的リスクも高いのがこの産業の特徴だ。

今回のような入国制限や移動制限というのは稀有な事例だが、近年でみると中韓関係による観光客低下などがその最たる例だ。日本と中国のインバウンドに依存してきた韓国は、隣国との関係悪化に伴い観光産業が大きな打撃を受けているし、日韓関係の悪化は、韓国からの観光客への依存度が高い九州の観光業界を直撃した。あれだけ騒がれていた中国人による「爆買いブーム」も習近平の鶴の一声で、政策転換が図られ「爆買い」があっという間に姿を消した。

経済的リスクもインバウンドではとても大きい。ここ数年の好調なインバウンドは、円安という追い風に支えられている部分も大きいが、3月に入り急激な円高が始まっており、今後の推移次第では、インバウンドの戻りに大きな影響が出る可能性は否めない。

コロナショックによる世界的不況の影響も大きい。世界中の企業で経済活動が抑制され、個人の収入の減少すれば、余裕資金が充てられる旅行は控える傾向になり、企業の利益が下がればMICEの減少につながる。そう考えると、インバウンドはコロナショックの収束後、一定の反動はあるものの、全体的な戻りは鈍いとみるのが妥当ではないだろうか。

そう考えたとき、長引けば長引くほど、事業者の倒産は増え続けるし、観光業発の地下暴落シナリオは現実のものになる。

ただ、近年の観光地における地価の高騰はバブルを彷彿とさせる異常な状況を呈しており、特に京都などは過剰なホテル誘致の為に住居とオフィスの確保が困難になっていただけに、お宿バブルが落ち着くことは歓迎する向きも多い。ただ、急激な地価暴落が経済に与える影響を考えたとき、日本経済は非常に難しい舵取りを迫られることになる。