新型コロナ自粛の「出口戦略」が必要だ

池田 信夫

新型コロナの新規患者数は日本ではピークアウトし、3月22日には初めて退院数を下回った。もちろんこの傾向が今後もずっと続く保証はないが、今の厳戒態勢を半年も続けると経済はボロボロになる。現実には今月中に、自粛の「出口」を検討するときが来るだろう。問題はどういう手順で自粛を解除するかである。

いま実効再生産数Rが1を下回っているとすると、R =1になったときが一つの目安だが、それが長期的に維持できるかどうかは疑わしい。自粛をすべて解除したときの基本再生産数R0は1より大きいからだ(そうでなければ感染は拡大しなかった)。ここで重要なのが集団免疫の考え方である。

コロナで集団免疫が成立するかどうかについては専門家にも論争があるが、成立するとすれば、たとえばR0=1.4(WHOの推定の下限)とすると集団免疫率Hは

H=1-1/R0=0.29

つまり人口の29%(3650万人)がコロナに感染したとき感染は安定する。このとき致死率0.5%とすると約18万人が死亡する可能性があるが、それは医療で減らせる。日本の人工呼吸器は約6万台だが、同時に1万人までの重症患者には対応できる。

逆に医療資源の制約から可能な実効再生産数を試算してみよう。半年で6万人の重症患者に人工呼吸器が対応できるとすると、R=1.1(集団免疫率10%)程度まで耐えられる。これは昨シーズンのインフルエンザ程度で、人口の1割が感染しても医療崩壊は防げるだろう。

封じ込めか自粛の緩和か

ここで二つの考え方がある:

  1. 徹底的な封じ込め:行動制限をこのまま続けてR≦1で感染拡大を防ぐ
  2. 自粛の緩和:R>1を容認して医療崩壊を防ぐ

1が多くの国で採用している考え方だが、数ヶ月で行き詰まるだろう。集団免疫率Hが同じなら最終的な感染者は変わらないので、封じ込めをやめたときRが激増して重症患者数が医療資源の制約を突破し、最悪の場合はイタリアのように医療が崩壊する。

2がイギリス政府の戦略だが、重症患者数が医療の制約を上回るときは、医療資源を守るために優先順位をつけて患者を見放すトリアージが必要になる。これを「非人道的だ」と批判する人が多いが、医療が崩壊するともっと悲惨なことになる。

日本政府は実質的に2の方針をとっているが、これは今のところ成功している。韓国のケースをみると、局所的に感染爆発が起こっても医療資源を全国的に動員すれば、R=1.1ぐらいまでは何とかなるのではないか。これは完全に日常に戻るわけではないので、今後もインフルエンザぐらいの注意は必要だろう。

具体的な出口戦略としては、

  • 一斉休校をやめて新学期は授業を再開する
  • 小規模な集会や屋外イベントの自粛を解除する
  • 自粛のコストは自己負担とするルールを明示する

といった手順が考えられる。重症患者数をモニターしながら、徐々に自粛を緩和することが望ましい。リンク不明の感染者が増えている都市部では、オーバーシュートが起こったら封じ込める必要があるが、それは全国的な戦略とは別の問題である。