ミサイルを飛ばす北朝鮮の意図と日本の姿勢

北朝鮮の動きがさっぱり読めません。3月に突如、短距離ミサイルを4回発射すると同時に朝鮮人民軍が通常の活動を再開したという報道もあります。金正恩委員長の行動規範は分析しにくいとされています。彼が何を考え、何を目論んでいるのか、通常の情報をかき集めて机の上に並べて思案しても答えは出てこないのかもしれません。

3/22戦術誘導兵器の訓練を視察する金正恩氏(朝鮮中央通信より引用)

3/22戦術誘導兵器の訓練を視察する金正恩氏(朝鮮中央通信より引用:編集部)

金正恩氏は1月3日にイランのソレイマニ司令官が暗殺されたことにおののいたとされます。ドローンで攻めるという手法を取れば暗殺を未然に防ぐ対策を今までより格段に強化しなくてはいけないからです。おまけにそのほとぼりも覚めないころから新型肺炎問題が中国から出てきます。いまだに北朝鮮は公式には新型肺炎の問題はないとしていますが、ほぼ確実にその問題はあるとみるべきでしょう。北朝鮮と中国国境の間は人の行き来があり、北朝鮮だけが(国を閉じているから)影響がないというのは考えにくいとみています。

さて、世界が新型肺炎問題で自国の対策で精いっぱいである今、戦略的意味が不明瞭な短距離ミサイルの4回の発射は何だったのか、であります。明確なメッセージなどないのかもしれませんが、むしろ、米韓あたりの専門家が様々な分析と憶測をするのを楽しみにしているのかもしれません。

私が考えるメッセージは1)北朝鮮は新型肺炎に毒されておらず、通常の状態に戻っている 2)韓国の3月15日の選挙への揺さぶり 3)経済的危機感が高まる韓国に心理的打撃を加える 4)在韓米軍がソウル地区から後退している中、北朝鮮の攻めの姿勢を強調する あたりではないかと思います。

金正恩氏はトランプ氏と11月の大統領選までに再度会談する可能性があるか、といえば私はないとみています。金氏は米国との協議を何らかの形で望んでいると思いますが、アメリカにとって今はそんな事態ではなく、優先課題が山積みになっています。そうだとすれば5)アメリカの気を引く ということもあるのかもしれません。

韓国との関係においては北朝鮮とすれば文政権の方が苛めるには与しやすいと思います。その点からすれば4月15日の選挙後、現与党の「共に民主党」の安定多数が望ましいのでしょう。ただし、文大統領の能力を見限っており、どのように役立てるかは不明瞭です。

ところで日本も北朝鮮問題に対して積極的だとは言えません。理由は「拉致問題」という明白な線が一つあるからです。ですが、私にはこれは高等な言い訳のように見えるのです。金正恩氏は拉致問題を解決できるとは思えないし、そもそも詳細すら知らないかもしれません。彼にとって祖父である金日成が日本を含む世界から拉致を進め、スパイを養成するというポリシーが背景でありました。仮に金正恩氏がそれを知っていたとしてもスパイなら秘匿すべき内容がばれてしまいますから拉致問題は解決しにくいのでしょう。だいたい、拉致被害者が北朝鮮にいるかどうかすらわかりません。日本に潜伏している可能性だってないとは言えません。

それでも日本は拉致問題を盾のように前面に置く理由は何でしょうか?私は対北朝鮮の第二次世界大戦の清算が終わっていないことへのリスクなのだろうと考えています。日本が韓国に1965年に行った総額5億ドルの経済支援パッケージの規模を考えてみたらわかるでしょう。

これは当時の韓国の2.5年分の国家予算で1965年の日本の大蔵省の予算は3兆6500億円です。その比率を当てはめる意味はないとご批判を受けるかもしれませんが、今ならどれぐらいの規模になるのか、誰も計算したくないでしょう。そんなものは到底日本国民に賛同されるわけないわけでそもそも近寄らない理由を解決困難な拉致問題にしているというふうに見えます。

ちなみに北朝鮮は世界160カ国以上と国交があります。国交がない主要国は日米韓などに限られます。ただし、大使館を置く国は24カ国のみです。

最近の日本国内の論調は(外交的に)韓国には近づくなという姿勢ですが、本質的には北朝鮮にはもっと近づきたくないはずで今後、どんな総理大臣が現れたとしても北朝鮮とまともなディールは困難でしょう。それなら今の状態が続いてくれた方がよい、と考えているのかもしれません。

しかし、その間隙をついて北朝鮮が日本に何か仕掛けてきたとき、日本は無防御な状態になる点は考えておく必要があるかもしれません。今回の一連のミサイル発射が日本へのメッセージだとは思いませんが、いつ何が起きるかわからないというのが世の中であります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年4月1日の記事より転載させていただきました。