NHKニュースで「新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、日本医師会は、一部の地域では病床が不足しつつあるとして、『医療危機的状況宣言』を独自に発表し、国民に感染を広げない対策や適切な受診行動を呼びかけました」とあった。
医療現場から届く声を受け止めてのことだろう。日本医師会は月曜日にも国の緊急事態宣言を促したが、今日も宣言はされなかった。横倉会長が、政府の方針を明確に批判しているように見えた。
医師会が言及した適切な受診行動のひとつが、感染している可能性のある人が、持病を持って受診している患者さんたちや医療従事者との不用意な接触を回避することだ。昨日も触れたが、70-80歳代の高齢者の致死率は15%を上回る。高齢者と同居している、あるいは、接触機会の多い若者たちには、この数字をしっかりと意識して欲しい。
そして、専門家会議のコメントでも、オーバーシュートしなくとも医療崩壊が起こる可能性を指摘していたが、専門家の危機意識と国の危機意識のギャップを感じた。専門家会議は、医療供給体制が切迫しているとまで言い切っているにもかかわらず、政治は緊急事態でない、ギリギリの状態が続いていると、不思議な言葉を発している。
経済指標が非常に厳しいので、これ以上の悪化を招く緊急事態宣言を回避したいのだろうという気持ちはわからないでもないが、やはり、命を最優先した上で、怒るべき状況を推測して支援策を素早く打つのが順番だと思う。
この非常事態で、さらに重要なのは、政権に対する信頼度だ。しかし、私は正直なところ、かなり失望してきている。
PCR検査については、各種の取組により、現時点で、前回会見したときよりも50パーセント多い、1日当たり6,000件を超える確かな検査を行うことが可能となっています。……こうした取組を通じて、今月中には、1日当たり8,000件まで検査能力が増強できる見込みです。
上記は安倍総理の3月14日の記者会見でのコメントである。しかし、3月18日から31日の2週間のPCR検査数は16,000人弱で、1日平均のPCR検査数は約1100人に過ぎない。総理大臣が記者会見で言及した数字に遠く及ばないのはどうしてなのか?できないのか、必要ないのか、意図的にしないのか、その理由を説明する責任はないのか?
全国の新規感染陽性者は2日続けて200人を超えたという。こんな状況でもPCR検査対象は依然として明確でない。阪神の藤浪選手は、それ以前のコロナ感染者の相談指針には当てはまらないが、どうして検査を受けることができたのか?臭覚・味覚異常が症状のひとつであることを認知させることになったのは重要なことだが、モヤモヤした気持ちはぬぐえない。
日本時間の3日には、世界の感染者数は100万人を、そして、死亡者が5万人を突破することが確実だ。他の諸国と同じことが起これば、2週間後に何が起こるのか?
そして、今日のニュースでは、ようやく東京でのクラブ、バー自粛の理由が具体的に明らかにされた。今後の混乱を回避するには、リーダーの具体的で明確なコメントが必要だ。あいまいな言葉ではこの国難は乗り切れない。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年4月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。