アベノマスク炎上の正体

千正 康裕

1. アベノマスクの炎上

安倍総理が、1世帯2枚の布マスクを全世帯に配布すると発表しました。

この政策は、どうも評判が悪く、海外メディアで批判されたり、ツイッターなどで炎上しています。

アベノミクスではなく、アベノマスクになってしまったと。。。

2. 政策担当者の解説が公表された

僕も、どういう意図で誰が決めたんだろうかと、理解に苦しんでいたところ。。。

政府マスクチームの浅野大介さんという官僚の方が、この政策の真意をご自身のFacebookで解説されていました。友達の友達くらいの距離感なので、僕のFacebookのウォールにもシェアされてきました。

3. 激しい炎上とその正体

この浅野さんのFacebookの投稿が、ツイッタなどでも拡散されて、とてつもない勢いで炎上していますね。

僕も浅野さんの投稿を見て、意図がようやく分かりました。

この政策は直接国民のためのものではないんですね

そこのボタンの掛け違いが、ミスコミュニケーションや炎上を生んでいるように思います。

浅野さんは書いています。

「使い捨てマスクは医療機関に優先的に回したい」

「そのため、国民一般は「布マスク」か「自作マスク」あたりでしのぎたい」

つまり、

不織布の使い捨てマスクを一般の人が買うんじゃなくて、医療機関の方に回したい

ということが、そもそもの目的なんですね。

政府マスクチームのミッションは、医療機関等の必要度の高いところにマスクを配布することですから、毎日不眠不休でそればかり考えている人が「疑いのない大事な目的だろ」と思ってしまうのは、よく分かります。そこに炎上の原因があるように思えてなりません。

「ひとしきり文句垂れていただいた後は」とか「日本の社会ってそういうの苦手じゃないはずだと思ってますんで」と書いておられる根っこには、

「これだけ国民全員のために必要な自明のことなんだから、多少不便があっても国民一人ひとりが協力するの当たり前だろう。」という気持ちが、どうも透けて見えてしまいます。

僕も現役の官僚の頃から10年くらいブログやツイッターで政策や官僚の仕事のことを発信しているので炎上経験がありますが、魂が震えるほど一生懸命日本のために働くほどに炎上しやすくなることが実はあります。

政策担当者が死ぬほど大事に思っているほど、一般の人はそう思っていないのが常なんです。

別に、国民のリテラシーが低いとかそういうことではないんです。これ、当たり前なんです。

政策担当者がマスクのことを24時間休みなく考えているのと、生活者が自分の仕事や家庭のことや休日の過ごし方とか色んなことを考えている中で、たまにマスクのことを考えるのとは全然違うんです。

生活者が、政策担当者と同じように24時間マスクのことを考えていたら、生活も日本経済も破綻します。

4. 本当に伝えたいことは

だから、本当に伝えないといけないメッセージはこういうことではないでしょうか。

■医療従事者が感染すると、病院の外来閉めたりして国民が医療を受けられなくなってしまいます。

■マスクは頑張って増産しているけど、今日本中がマスクを必要としているので、生産が追い付かないのです。

■だから、みんなの命を救う医療を守るために、どうか今は医療機関への配布を優先させてください。

■もちろん国民の皆さんもマスクが手に入らないと困るし不安なのはよく分かります。ベストじゃないけど、次善の策として布マスクを配ります。しばらく使い捨てマスクが入手できなくなるかもしれませんが、不便をおかけしますが洗って布マスクを繰り返し使ってください。ご協力をお願いします。

■ちなみに、日本の平均が1世帯2人くらいなので、取り急ぎ2枚配ることにしました。もちろん家族の多い世帯もあると思います。本当は十分な数を配りたいのですが、1世帯4枚~5枚配ったり、世帯の人数をきめ細かく把握して配ると、今度はすごく時間がかかってしまいます。医療機関へのマスク配布が間に合わなくなってしまいます。

■まずは、上手に2枚を使ってください。本当にお手間ですが、自作のマスクづくりもできる方はやってみてください。独身の方は、余った1枚を家族の多い人にあげるとか工夫をしてもらえるととても助かります。

いかがでしょうか?

多くの人に「伝える」というのは本当に難しいので、僕も完全に自信が持ちきれませんが、感想などお寄せいただければとてもありがたいです。

編集部撮影

5. 官僚の発信について

今回、炎上してしまいましたが、浅野大介さんのように、政策を作っている人が、何を考えているのかということを発信することは、本当に素晴らしいと思います。

ちゃんと伝えないと、国民には届きません。

よい政策も一人ひとりに届かないと意味がありません。届いたマスクを見てイヤな気持ちになってゴミ箱に捨てる人がいたりしたら、本当に悲しいです。

おそらく、現役の官僚の立場でこれだけ政府の重要政策で炎上したら、相当精神的なショックがあると思います。

でも、ちゃんと伝えようとした心意気を僕は受け取りたいと思います。

これを機に、官僚の発信が抑制されることなく、色々な情報が国民に届くようにしてほしいと思います。

政策の領域の人間が、一般の人に政策の意図や中身を伝えるということは、これまでの霞が関になかった仕事なんです。

別途、まとめて書きたいと思いますが、プロの人たちと政策を作っていれば世の中の不満が出ないという環境の中で霞が関はずっと政策を作ってきました。

だから、政策を伝えるのが上手な人なんて、多分一人もいないし育成もしていません。

じゃあ、民間にいるかというと、僕はそれもいないと思っています。「伝える」ことのプロはいますが、「政策をづくり」と「伝える」を両方わかる人がいないんです。

(よいか悪いか別として)政策づくりは、霞が関がずっと独占してきたので、民間に政策を作れる人は本当に少ないです。

厚労省や文科省には、民間の「伝える」プロの人が広報室にきて働いています。そういう人達も先駆者になるでしょうし、官僚から広報の業界に出向や研修といった形で武者修行に出る機会も必要でしょう。

そうでなくても、ツイッターとかブログとか気軽にできるものでいいから、自分でやってみるのが一番よい勉強になるかもしれません。

ちょっとめんどくさいし、批判が怖いかもしれないけど、でもとても勉強になるし、うれしいこともたくさんあります。


編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2020年4月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。