金価格が7年ぶりの高値となっています。投資の世界ではろくな成果が出せない中、金だけは輝きを増しているようですが、金関連の投資歴が長い私には「その眩しさにたぶらかされないように」と申し上げておきます。
今、金が買われているのは二つの要素からと考えています。安全資産の代名詞から新型肺炎の行方や経済的インパクトがまだ全く読めない中、投資先として注目されたこと、もう一つは主要各国の金利を思いっきり下げてしまったため、預金利息がほぼなくなってしまったことにあります。
例えばカナダではつい先月までは利息は年2%を超える水準でした。ところが3月に3度も利下げし、政策金利を一気に0.25%としてしまったことで預金は安全ではあるものの魅力は半減しました。(アメリカも同様です。)
では株式市場を見てみましょう。一部の高配当銘柄には今日現在、配当率30%を超えるものすら続出しているのですが、もちろん、誰もそんなことは信じていません。REITなど多くの業種で続々と減配、ないし無配発表が続いています。更に4月下旬から始まる1-3月決算に身構えているというのが本音でしょう。
となれば確かに「ぶれのない金」に投資先が向かうというのはナチュラルです。あくまでも投資のほこ先探しであります。
ただ、長く投資をやっていてわかっていることはある一つの投資対象だけが「一人旅」を長くすることはないことです。他が苦しんでいるなら影響がない金価格も引っ張られやすいこと、それと今の金の人気は消去法に基づく「やむを得ない選択肢」になっています。とすれば市場のムードが変わった時、金の輝きは一気に失せる可能性があります。ここがリスクに見え、私にはロシアンルーレットのように感じるのです。つまり金投資はあくまでも「代替投資先」だという点を認識すべきです。
では市場のムードは変わるのか、であります。私は既に変わっているとみています。以前、SARSの時もリーマンショックの時も3月末が株価のボトムだったと指摘しました。今回についてみるとNYダウは3月23日の17800ドル台がボトムだった公算が高まっています。なぜでしょうか?
SARSの時もリーマンショックの時も悪業績は3月末までにある程度市場が織り込んでいたからであります。今回の株価大暴落で一番激しい動きをしたのは実はアメリカのREIT関連でした。株価が何分の1にもつるべ落としのようになったのは単に賃料などが入らないだけではなく複雑な金融工学を使った資金運用なども背景にあるようで、一部でmargin call(追証)がかかったりしたものもあります。その結果、一部の銘柄は一日に3割ずつ下げてみたりある日突然5割、6割上げたりするローラーコースターどころかバンジージャンプ相場に陥っていました。つまり、本来一番安定的なビジネスをしているはずのREITが最も激しい影響を受けていたことで安定配当を期待していた投資家や401kなどがおののいたというのが実情です。
現状、REIT株は落ち着きを取り戻しつつあります。底値からおおむね1.5倍から2倍になってきているものも増えています。それ以外にTECHセクターは比較的株価が堅調で他の業種に比べ下落率は少なく、なおかつ、低金利でメリットが高まるため(TECHセクターは金利敏感株ともいわれます)こちらも回復していくとみています。
つい3週間ほど前、Cash is Kingという報道が流れていたのに、それらの人は今、投資先と投資のタイミングを見定めています。プロの投資家は既に2週間ぐらい前から本格的に買いに走っています。
こうなると金が今後継続的にさらに輝きを増す可能性はあと一つしかありません。資源価格の上昇であります。金は商品相場の一角にあり、資源相場とリンクしています。ただし、銀や銅などに比べ工業用途の比率が下がるのでやや別枠的な存在ですが、それでも資源価格の上昇があれば金価格はサポートされます。中国経済の稼働再開が本格化すれば資源価格にはポジティブになります。
投資というのは奥が深いものです。投資の指南書に「今はこれ」という非常に単純ロジックの説明もありますが、正直AIと人間の心理ゲームのようなものです。今回、AIに頼った投資ファンドは失敗しました。AIが読み切れなかったからです。私はまだ人間の頭脳が勝てる余地はあると思っています。それは環境の激変にともなうゲームチェンジをAIは予期できないという弱みがあることを逆手に取るということです。難しいですが、チャレンジする価値はあると思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年4月9日の記事より転載させていただきました。