1社でも多く生き残るために「家賃支払いモラトリアム法」を!

松田 公太

昨日、東京都小池知事は新型コロナの感染拡大を防ぐための休業要請先として具体的な業種や施設の種類を公表しました。

安倍総理が緊急事態宣言を発令したのは4日前。都の取りまとめに対する国の基本的対処方針の改正もあり、ここ数ヶ月の遅延を取り戻さなければならないこの状況下でも政治的な駆け引きが行われていたことに憤りを覚えます。

内容も首を傾げるものが多かったです。選定基準の根拠も不明瞭で、本当にこれで大丈夫かと心配になります。
例えば、居酒屋の7時オーダーストップ、8時閉店要請。これでは居酒屋の本業の売り上げは立ちません。「(補償はしたくないので)開店は認めるが、お客さんには来てもらうな」と言われているようなもの。相変わらずあやふやな政策が続いています。

私も携わる外食業の大半が(テイクアウト主体の一部を除く)崖っ淵に立たされていると言っても過言ではありません。それを重く受け止めていない政治家と官僚が多すぎます。その理由は、変な話、外食業界が「自由」だからです。

参入障壁も低く、規制も少なく、誰でも始められるビジネス。切磋琢磨を繰り返し、競合と比較して少しでも味が落ちると、少しでもサービスが悪いと、少しでも高いと、すぐに淘汰される過酷な世界。だからこそ日本の「食」は強くなり、世界中から旅行者を集めるインバウンドの要(かなめ)として成長したのです。

ミシュランの星数も東京が世界で1位です。逆に言うと、利権を守る組織や団体が必要なく、政治家が巣食う余地がなかった為に(良いことですが)、産業として真っ当に取り合ってこられなかったとも言えます。私は国会で経済産業委員会に属していましたが、経済対策と言う名の元に製造業や電力事業者に偏重する政府の姿を何度も目の当たりにしてきました。

しかし、あまり知られていませんが、外食産業の規模は26兆円で、料理小売も含めると33兆円と巨大です。4兆円の家電、11兆円のコンビニ、17兆円の自動車販売の三つを合わせてやっと同程度の規模になるぐらいです。仮にコロナ問題で一般飲食店の1/4が潰れてしまったら…失われる雇用も含め、経済へのダメージは計り知れず、ゾッとしてしまいます。

私はコロナの感染拡大を抑えて犠牲者を減らす為にも、経済・財政の更なる悪化を防ぐ為にも、中途半端な対策ではダメだと訴えてきました。1月から水際対策を徹底し、2月からは与野党で法改正を含む緊急事態宣言の準備をし、3月中旬には発令をして1ヶ月ほどロックダウンに近い状態に持っていくべきだと。3月であればまだ一気に感染者が増加する前だったので、2週間の自宅待機で発症キャリアが洗い出され、殆どの無症状者も陰性化された可能性があります。

徹底対策であれば医療崩壊を防ぐことができ、休業事業者への協力金と、仕事がなくなった国民を守る為の社会保障増加も最小限でおさえられた筈です。飲食店も売上「0」が1ヶ月だけならば、大手は内部留保で、中堅・中小は銀行融資で、小規模事業者は給付金や制度融資を中心とした資金繰りで何とか持ち堪えられました。

しかし、今の中途半端対策では感染がズルズル続きますので、実質休業要請も続き、売上が前年比、もしくは目標比で10%程度しかいかないという月が4、5、6と何ヶ月も続いてしまうでしょう。

はっきり言って、私が経営する会社も非常に厳しい状況になっています。出店している商業施設の多くは閉館になり、止む無く臨時閉店が続いています。そして外食自粛と相まって、売上は前年比10%前後(マイナス90%!)で推移しています。

最近はTVで経営をしたこともないコメンテーターが「テイクアウトとか色々新しい事をやればいい」と偉そうに発言していますが、勿論やれる事は死に物狂いでやっています。しかし、売上が9割も落ちると、どんなに皆で力を合わせて頑張っても、どんなに経費を削減しても、大赤字とキャッシュの大出血を止める事はできません。うちみたいな中小企業でも毎月何千万円ものペースで損失が膨らんでいきます。

私ごとが続きますが、だからと言って、簡単に諦めるわけにはいきません。現在経営する会社は、日本原宿に1号店を出してから2020年3月でちょうど10周年を迎えました。日本にパンケーキブームを作り、新しい朝食文化を広めてきたという自負があります。そして、それを一緒に育てて来てくれた仲間とその家族がいます。何とか生き残る為に最後の最後まで闘い続けようと思っています。

その為にも、国会議員にやってもらいたい事が一つあります。私は議員時代も自助、共助、公助を訴えてきましたので金をくれ、とか全て補償しろ、とは言いませんし、思ってもいません。

緊急事態宣言で、臨時休業中の都内の居酒屋(編集部撮影)

いま、求めたいのは、事業主が生き残る為の金を無制限に出せということでは無く、生き残る為の術を早く考えて実行に移して貰いたいということ。私も幾つかのアイデアがありますが、いま早急に取り組んでもらいたい一つが【家賃支払いモラトリアム法案】(限時法)を策定し、通してもらうということです。

飲食店や小売店にとって、1番下げられず、重くのしかかっているのが家賃です。東京近郊では月に何百万円も支払っている店舗はザラにあります。
その家賃を全額支払い免除にすると言うことではなく、テナントと大家が個別に交渉して猶予を持たせる可能性に取り組む法律を作るという事です。

大手不動産会社であれば、緊急事態宣言が出されているエリアの飲食店からの支払いが数ヶ月止まっても、オフィスやその他、自粛を要請されていない企業からの支払いで余裕でキャッシュを回せるところが多いでしょう。

オーナーが中小やファンドで、資金繰りが厳しくなるところに関しては、政策銀行が無利子無担保でブリッジローンを組めば良いのです。中小の飲食業より、資産と回収の術を明確に持っている不動産オーナーの方が銀行も審査しやすいはずです。

私が色々と相談を受ける中小企業の経営者には、既に借入が重くのしかかっているのでこれ以上は借りたくないという方が少なくないのですが、家賃の支払いを先延ばしにしてもらう事には積極的にお願いしたいという方が多いのです。

非常識な提案だと思う人も多いでしょう。

しかし、私は10年前のリーマンショックで施行された中小企業円滑化法(いわゆるモラトリアム法)は一定の効果があったと思っています。同法も基本的には金融機関に「誠実な対応」を求めるだけのものでしたが、条件緩和率は95%にも上りました。もちろん、一部のゾンビ企業が延命されてしまったという問題もありましたが、実際は助かって、今も多額の税金を納めてくれている優良企業も多いのです。

その時に発生したデフォルト率は5、6%だったと記憶していますが、不動産会社への銀行融資であれば、仮にテナントが抜けてしまったとしても次を決めるまでのリスケにも応じる事ができるでしょうし、回収不能なデフォルト率を非常に低くすることが可能になります(国民の負担が増えません)。

有難いことに、このような状況下で、家賃を減免したり、支払いを待って下さるような不動産オーナーも出てきています。しかし、「1円も値下げしないし、支払いも待たないよ。幾らでも他に貸せる先があるので、どうぞ出て行って下さい」と、全く交渉にすら応じてくれていないところも多いのです。

私は、今のような国難を乗り越える為には、皆が少しずつ痛み分けをして、共助を高めてやっていく必要があると思っています。
それが日本の精神だったはずです。

もう一度言いますが、本モラトリアム法は家賃を免除してもらう為のものではなく、猶予を頂き、生き残る為の時間を頂く為のものです。分割になるかもしれませんが、家賃はオーナーの元に戻ってくるのです(我々飲食店が失った売上は一生戻ってきませんが)。

コロナが終息した時に、焼け野原が辺り一面に広がっていたとしても、しぶとく生き残っている芽を少しでも多く残す為に、政府も、国会議員も、首長たちも政治的なイザコザは置いておいて、知恵を絞って、必死に実行にうつして下さい。今のままでは、特に外食産業は、壊滅的な状況になり、多くが根こそぎ消えてしまう危機に直面しているのです。それは間違いなく日本の誇れる食文化の損失になり、多くの国民が職を失い、経済回復の原動力を失うことに繋がります。

とにかく1日も無駄にせず、自分たちの政治生命をかけてでも早急に動いて下さい。
民間の事業者たちは、それこそ人生をかけて闘っているのです。

追記

家賃のモラトリアムはコロナに苦しむ海外各国や自治体も導入し始めています。
以下はアメリカ(NY)、イギリス、シンガポール、オーストラリアの記事です。

アメリカとイギリスは3ヶ月。シンガポールは最長1年の猶予を法律で与えました。
飲食店を潰さないように、非常にスピード感を持って対応しています。

リーマンショック時の何倍もの急激な減収を余儀無くされている多くの優良企業を救うにはこの手が非常に有力です。


[アメリカ(NY)]


[イギリス]


[シンガポール]


[オーストラリア]


編集部より:この記事は、タリーズコーヒージャパン創業者、元参議院議員の松田公太氏のオフィシャルブログ 2020年4月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は松田公太オフィシャルブログをご覧ください。