新型肺炎で一躍注目を浴びた在宅勤務。その始まりは1970年代のコールセンターではないかともいわれており、歴史は非常に長いのですが、割と普及しませんでした。ただ、日本と海外ではその立ち位置も違いますし、社会的背景も違います。日本で在宅勤務は果たして普及するのでしょうか?
日本で在宅勤務が仮に普及した場合、会社と従業員双方にメリットがあるとされます。会社側は高い事務所スペースを大幅削減でき、フリーアドレス(自分の決まった指定席はなく自由席)化することが可能です。従業員への交通費の支給も大幅に減額になるでしょう。一方、従業員は通勤時間が無くなり、仕事に集中できるというメリットがあるとされます。
ただ、私は仕事に集中できるという点については懐疑的であります。
日本と北米を比べると仕事の発注形態に大きな違いがあります。北米では専門業者(専門家)や会社運営に必要な作業を外注するのが普及している点です。ご承知の通り、北米の経営では会社は従業員と極めてドライな関係であり、業績不振や今回の新型肺炎といった社会的激変事態に対してあっさりレイオフできる環境があります。レイオフに対して文句はあまり出ません。
一方、北米の企業は雇ったりレイオフしたりする慣習は手段の一つですが、必ずしも良いとは思っていません。そこで仕事を外注することで経営状況に柔軟に対応できる対策を施しています。例えば建設業界の現場監督とは個人個人と業務委託契約であることが多くなっています。現場ごとの契約でよい業績を上げ、次の仕事が取れれば次の契約が取れるという流れです。
中小飲食店の多くは帳簿をつけるのが苦手です。それを全部代行してくれるところに丸投げしている飲食の事業者は相当あります。給与の支払いは多くの中小企業がPayroll会社と契約し、そこに委託しています。マーケティングも専門をそのたびごとに雇いますし、銀行との資金調達交渉も専門家に委託します。これは北米の本社機能を極めて小さくすることで危機対応ができるようにしているのです。
では日本。まず、働き方の根本が全然違います。会社入社後7-8年ぐらい様々な部署を経験し、そこから専門分野に入っていくわけで、転職を考えたい30歳ぐらいではほとんど専門性がないのです。では派遣社員さんはどうでしょうか?一応、一般的作業はこなせますが、深みがないのです。理由は専門家としての社会人教育を受けていないし、独学で高いレベルを目指し、サーティフィケートなりを取得しているわけでもないからです。
次に日本はアメーバー方式と言われるように5-10人程度の小集団が一つの作業を一緒にやることで強みを見せてきました。例えば会社の机の配置を考えてください。係長が一番端で「シマ」と呼ばれる8つぐらいの机が向かい合わせで並びます。顧客からの電話対応は「シマ」の人間ならだれでもできることが当たり前になっています。つまり、そもそも論で日本の働き方は在宅勤務に適合していないのです。
次に効率性です。仮に今日から在宅だ、と思ったらまず何をしますか?ゆっくり朝食を食べてネットを一通り見てさて、仕事になります。充実したスタートです。ただ、効率は上がる部分と下がる部分があります。上がる部分は邪魔が入らないのでサクサク進みます。ただ、やっているうちに突っ掛かることが多くなり手詰まりになると思います。つまり、一人の作業で完遂できるものが少ないのです。結局誰かに電話するなりテキストするなりになります。もう一つは夕方まで自宅で同じ緊張感を維持できるか、であります。私は100%あり得ないとみています。
つまり、在宅勤務と「9時5時」の職務規定は相容れない関係であり、在宅にする以上、北米と同様のプロフェッショナリズムをもった完遂型の職務規定に変えないと難しいと思っています。勿論、一部の社員はできるかもしれません。が、組織内での脱落者を相当生むことになるでしょう。
あるスイス人の個人事業者と話をした際に、出張や海外での短期滞在が多いと聞き、「出先で仕事の効率は上がりますか?」と伺ったところ「70%だね」とはっきり答えられました。慣れている人でもそんなものなのです。個人的には在宅勤務ではなく家と会社の中間地点にあるシェアオフィスの活用が機能すると思います。必要あればほかの社員とどこかで落ち合って打ち合わせる機動性が高まります。
日本の在宅勤務はイメージ先行のような気がしてなりません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年4月13日の記事より転載させていただきました。