亡きジャック・ウェルチ氏に思う

『列子』に「大道は多岐(たき)なるを以って羊を亡(うしな)う…大きな道には分かれ道が多い。だから逃げた羊の姿を見失ってしまう」という言葉があります。また西洋の有名な諺にも、「二兎を追う者は一兎をも得ず…If you chase two rabbits, you will lose them both」というのがあります。

省く・捨てる・消すといったことがちゃんと出来ないと「多岐亡羊」となって本質を見失い、結局どこに向かい何をしているか分からないようになってしまい兼ねません。それ故、一定の期間内に何が本当に良いものかを取捨選択する必要が出てきます。経営においても之は大事なことです。

ジャック・ウェルチ氏(Wikipedia)

米GE(ゼネラル・エレクトリック)元会長のジャック・ウェルチ氏は、所謂「選択と集中」の重要性を世に広めた経営者です。彼が成功裡にそう出来たのは、それだけ広大かつ多様な事業を有し、同時に業界のNo.1やNo.2事業を創り上げてきたからこそであります。

そのウェルチ氏が先月1日、腎不全のため84歳で死去しました。彼が経営者として君臨していた20年の間、GEの「売上高は250億ドルから1250億ドルに、利益は16億ドルから150億ドルに(、中略)時価総額は4000%拡大」したとされ、彼は「20世紀最高の経営者」といった称賛を一身に浴びてきました。

しかしウェルチ後の20年はと言えば、01年の「米同時テロの影響で主力の航空機エンジン事業が失速。後任のジェフ・イメルト氏は多角化路線の修正を余儀なくされ」、08年の「金融危機で巨額の損失が発生。メディア事業や家電事業を売却し、ウェルチ氏が育てた金融事業からも撤退したが現在も負の影響を残す」といった有様です。

同じ文脈で、日産自動車前会長のカルロス・ゴーンという人が挙げられます。彼は99年よりコストカッターとしての辣腕を振るい、結果として瀕死の日産を2年で「V字回復」へと導き、4年で2兆円の借金完済を成し遂げて、一時的に世に大いに持て囃されました。しかしそれから15年半を経て訪れたゴーン後の日産に対し、在任中彼がやってきた事柄に多くの知識人は今如何なる評価を下しているのでしょうか。

私は、本当に称賛を受けるべきは、「我より古(いにしえ)を作(な)す」べく自分で何かを創り上げ、それが五十年百年と長期的に発展するような仕組みを創り上げた人だと思います。しかし上記2名のケースは正に、自分の代が終わったら終わり、の典型であったと言わざるを得ません。報じられるゴーン氏の公私混同ぶりは言うに及ばず、彼らはそれ程の称賛に値しないと思います。

複雑系の現実で何が正しいかは、時々刻々変化します。企業や事業を取り巻く環境は常に変化しますから、企業の永続は難しいことです。ウェルチ氏は生前、「自らの成功は後継者の実績によって評価されると語っていた」ようですが、イメルト氏以後現在に至るGEの惨状はその評価を極めて厳しいものとしていましょう。

一時代でも世の中が大きく変化する中で、会社を如何に進化させ続け、何百年もの間永続させ得るか、と私はSBIグループ創業当初から真剣に考えていました。私が出した答えは、「自己否定」・「自己変革」・「自己進化」のプロセスを続けるしかないということです。

それが経営理念の一つにも掲げている、「セルフエボリューションの継続」ということです。此のスピリットは私がトップの座を退いた後も、我がグループの最も大事な創業の精神として永続化せねばならないと思っています。そして社会の公器たるSBIグループは真に徳業を営む中で、永続企業(ゴーイングコンサーン)として発展を遂げて行かなければならないのです。

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