ダブル復興課税?コロナ対策、請求書は忘れた頃にやってくる

中田 智之

先週は、新型コロナウイルス問題に関する様々な医療対策、経済対策が続々と決まった。

国民に対する10万円の給付、ドライブスルー型のPCR検査、ホテル借り上げによる軽症者隔離、診療報酬倍増などだ。いずれの政策も是非のあるところだが、スピード感のある決断というのも必要だろうし、短期的施策としては一定の必要性を認める。

安倍首相と西村コロナ担当相(撮影は3月、官邸HP)

しかしその「財源」について直視した発信はほとんどない。短期的には国債発行で充てられると思うが、2、3年後に、その決断が私たちの生活にどのような影響があるかを共有し、解決策を模索したいと思う。

1. 未だに続く復興特別所得税

昨年度の確定申告が1~2か月前の出来事なので、復興特別所得税の項目を改めて目にした方も多いと思う。

2011年に起こった東日本大震災に対する復興特別所得税は、2037年まで続くことになっている。その間従来の所得税に2.1%が上乗せされており、約10兆円分を贖うこととなっている。

(参考)個人の方に係る復興特別所得税のあらまし ― 国税庁

消費税が2%について大激論があるが、こちらの2.1%についてはあまり話題になっていない

今般の国民に対する10万円の給付は、もしも触れ込み通り全国民に対するものであれば真水で10兆円ということになる。PCR検査は1件数万円し、ホテルの一棟借り上げは幾らかかるのだろうか。診療報酬倍増は当然分野を絞ってのことと思うが、莫大な規模になるのは間違いない。

仮に従来と同様、コロナ対策特別所得税という形をとる場合、その税率は支出額に応じて4%にも5%にもなる。震災復興特別所得税と重複したダブル課税ともなると、考えたくもない税率になる可能性がある。

2. 財源の議論なき減税案でよいのか

コロナ自粛に対する経済対策として各野党から減税案も提示されている。しかしこれらも財源に関して法案中に明確に示されてはおらず、十分に議論されているとは言えない。

仮に消費減税を達成したとしても、不足分を復興特別税として所得税に上乗せということになれば、現役世代のみ負担が多くなる結果となる。そうなれば、消費減税はシルバーデモクラシーであると指摘される可能性もあるのではないだろうか。

写真AC

消費税に限らず、既に導入されている現金給付である子供手当に関しても、導入に伴い年少扶養控除が廃止、子育て世代の増税となっている。

(参考)子どもに対する手当の増額と年少扶養者控除廃止の影響 ―参議院

このように様々な施策に関して、わが国は一貫してフリーランチはしてこなかった。それ自体は財政規律・スクラップアンドビルドの観点から当たり前ながら必要なことである。

3. 社会保障を整理する契機ではないか

では財源として別の税を生まない、真の給付・減税とはなんだろうか。政府の支出・事業を減らすことである。

政府は今後、コロナ対策特別所得税を導入し、ダブル復興課税となることを国民に納得させることができるだろうか。説明もせずいつの間にか導入しているなどというのは論外である。

そうであれば、財源が足りないことを真摯に説明し、国民の理解を求め、社会保障の見直しに着手すべき契機なのではないか。

継続性が問題視されている年金に関して、所得や資産での制限、あるいは生活保護や全世代型保障との合流に関して議論されるべきではないだろうか。

医療制度の拡充が評価されたのは昔の話で、いまの先進国ではサスティナビリティーの観点からいかに適正化、抑制するかの議論がすすんでいる。保険者間での競争原理の導入をはじめ、手厚すぎる制度を見直す余地があるのではないだろうか。

埋蔵金や無限に発行できる国債というのは、実在するかどうか分からない。そうであれば、我々が当たり前のように受けている恩恵の財源について、もう一度考える必要があるのではないだろうか。

まとめ

以上を踏まえたうえで、今行われようとしている現金給付や、消費減税の議論を否定するつもりはない。いずれも短期的な判断としては必要性があると感じている。

しかし実施するからにはその出口戦略について、意識の端に留めておくべきだとおもう。問題が解決して安心感が広まり、我々がこれらの議論について忘れた頃に、こっそり税金が上乗せされないように。