これは連続記事の四回目、最後の記事です。一回目はこちら。二回目はこちら。三回目はこちら。
5.これからの展望
当初は経済その他の活動との共存を目指していた日本の専門家会議ですが、3月中旬以降あまりに孤立無援で状況が悪化してしまったために、今はかなりアグレッシブに「一度経済を止める」方針に出ています。
ただこれは、いわゆる「ハンマーアンドダンス」戦略の一環であり、一度ハンマーでぶっ叩いて感染者数をコントロール可能なレベルまで落としたら、そこからは爆発的拡大を抑止しつつ「ダンスwithコロナ」の時代がはじまります。
今のアグレッシブに経済を止める方針に反対(なので専門家会議を攻撃している)人も、専門家会議の人たちも、最終的にはこの「ダンスwithコロナ」を目指している点は同じであるはずです。
3月上旬程度の感染者数なら、クラスター対策と「三密に気をつける」程度の持続的介入で、ある程度経済を回しながらでも感染爆発は回避できていましたよね?
今はシンドいですし、5月上旬になったら嘘のようにコロナが消えてなくなったりはしないでしょうけど、「3月上旬程度のコントロールで、経済を回していく」ゴールなら、あらゆる立場の日本人が共有できる未来像になるのではないかと思います。
ここからは連載の次回でもっと詳しく話したいことを先取りして言いますが、「ダンスwithコロナ」時代を乗り切るために大事なのは「接触者追跡能力」の大幅増強だと私は考えています。
ニューヨークのクオモ知事も、「巨大な接触者追跡能力集団」が必要だ・・・みたいなことを最近言っていました。この方がわかりやすくまとめてくれていますが、ニューヨークだけで3万5千人もの医学関係の学生を動員した巨大追跡集団を作るらしい。
PCR検査の話ばかり話題になっていて忘れ去られていますが、この「接触者追跡能力」を徹底的に増強することが、来るべき「ダンスwithコロナ」の時代にちゃんと経済を止めずに回すためには最重要なことのはずです。
ドイツは韓国以上に検査をしまくっていますが、東アジア諸国ほど成功していません。「検査を増やしさえすればいい」と思っている人は、ちゃんと状況を冷静に見れていないのではないかと思います。
次回予告的なスライドを三枚掲示しますが・・・
みんな「前工程」のPCR検査の話ばかりしているけれども、大事なのは「後工程」の接触者追跡をもっと徹底できるようにすることでは???
3月ぐらいからずっと思っているんですが、韓国が出てくると冷静さを失うのは、日本の右翼さんだけじゃなくて、左の人も相当ヤバいです。このPCR検査の話も、冷静に問題自体を解きほぐしていけばいいのに、やたら感情的に相手を全否定してやる!みたいなムーブメントが両側から荒れ狂っているために対処ができなくなってしまっています。
で、韓国以上に検査しているドイツがそれほど成功してないところを見ると、東アジア諸国で成功している国はこの「接触者追跡」をメチャクチャ徹底的にやってるところが鍵なのではないでしょうか。
上記のスライドで、韓国がやってる接触者追跡能力と日本の対策班の比較をしていますが・・・ハッキリ言って話にならないほどの差がある。
今後日本のPCR検査はどんどん増やしていく流れにはなっているものの、「CTが過剰配備されている日本の医療網をレーダーに使う」戦略があるぶん、PCR検査の数は”少なくとも一般に思われているほどの”差にはなってないというのは、多くの専門家が言っていることです。(例の岩田健太郎医師も言っている)
しかしこの「接触者追跡」能力はもう天地ほど違う。
韓国が「プライバシーってなんですか」ぐらいの感じでバシバシ強権的に追跡しているのに対して、日本では保健所が「若い人は電話しても出てもらえなくて・・・」みたいなレベル(笑)ですぐ「感染経路不明」になってしまう。
そういう「プライバシーに関する法律問題」でかなりビハインドがある上に、それに使える人員もITツールも全然違います。
中国が非常に強権的な住民監視システムを持っているのは有名でしたけど、今回の韓国と台湾の事例は、「え?それOKなの?」って結構私は衝撃を受けました。特に韓国の、携帯のGPS情報やクレジットカード決済情報、さらには監視カメラ情報まで駆使して感染者を監視してるのは・・・
今日本が考えるべきことは、「どこまで」なら許容できるのか?ということです。おそらく、中華文明圏(及び韓国)で見られるレベルの「監視」体制は、プライバシー大好き日本人は受け入れがたいのではないかと思います。彼らとは「お上」的なものに関する感覚が全然違うんだな・・・と思ったりしました。
最近一番アタマおかしいんじゃないか?と思うのは、日本政府がマイナンバーカードを導入しようとした時には「国が個人を管理しようとしている!」と反対しておいて、同じ人が台湾のマスク配給制を聞いたら「これは凄い!やはり日本政府は無能だ!」と騒ぐ・・・みたいな話です。
今、韓国の事例や台湾の事例を持ってきて考えるべきことは、日本で取り入れられることはどの部分なのか?できないとしたらそれはなぜなのか?どこを変えればいいのか?という論点をちゃんと詰めていくことです。
おそらく、日本は韓国レベルの(ましてや中国レベルの)国民監視はできません。アレルギーが強すぎる。(そうはいってもマイナンバーカードのもう少し強化した運用ぐらいはやってほしいと思っているのですが)
じゃあそういう「武器」がないぶん、人員レベルでの接触者追跡能力は、韓国の何倍とかいうレベルで用意しないと、「ダンスwithコロナ」の時代に戻れないはずでは?あるいは、日本人も受け入れ可能なレベルのIT的な接触者追跡ツールはどういうものでしょうか?
連載の次回ではそのあたりの、「経済再開」にあたって何を考えるべきなのか、その時に、「武漢でいきなり爆発した中国、カルト宗教でいきなり爆発した韓国、はやめに水際で封じ込めた台湾、知らないうちにいきなり爆発した欧米」にはできていない、「感染者数が少ないうちにその動態をきっちり調べることができた」日本の対策班の知見をどう活かしていけばいいのか?という話をします。
連載は不定期なので、更新情報は私のツイッターをフォローいただければと思います。
この連載の趣旨に興味を持たれた方は、コロナ以前に書いた本ではありますが、単なる極論同士の罵り合いに陥らず、「みんなで豊かになる」という大目標に向かって適切な社会運営・経済運営を行っていくにはどういうことを考える必要があるのか?という視点から書いた、「みんなで豊かになる社会はどうすれば実現するのか?」をお読みいただければと思います(Kindleアンリミテッド登録者は無料で読めます)。
「経営コンサルタント」的な視点と、「思想家」的な大きな捉え返しを往復することで、無内容な「日本ダメ」VS「日本スゴイ」論的な罵り合いを超えるあたらしい視点を提示する本となっています。
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倉本圭造 経済思想家・経営コンサルタント
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