欧州の小児コロナ患者、川崎病に似た症状

ヨーロッパの小児コロナウイルス感染症患者に川崎病に似た症状が現れているようだ。

私が、東京大学医科学研究所と理化学研究所のゲノム医科学研究センターに在籍していたころ、今は千葉大学の教授になった尾内善広先生が、全国を飛び回って川崎病患者の血液を集めていたことを思い出した。 

川崎病の遺伝的リスク要因を調べる研究をするためだったが、コロナウイルスによる風邪の流行と川崎病の発症頻度に相関があるとの説明を受けたことがある。川崎病は1961年に川崎富作先生が初めて報告した病気で、1978年、1982年、1984年に少し罹患数が高くなっていたが、この時期の風邪の原因としてコロナウイルスが多かったと聞いた記憶がある。

川崎病の遺伝的リスクの一つとして、HLA(白血球型)のクラスII分子が報告されている。このHLAは免疫を担う細胞に抗原を提示して、免疫活性を高める分子である。

川崎病のリスク要因が、他の種々の血管炎を含む自己免疫病要因と共通であることも指摘されている。したがって、子供の川崎病と、成人での血管炎などを引き起こす仕組みが類似している可能性がある。

おそらく、コロナウイルスに対する抗体が、何らかの形でわれわれの体に対して交差反応(似たような分子を間違って認識し攻撃してしまうこと)を起こし、自己免疫反応が起こっているのだろう。

それを裏付ける一つの証拠として、数年前に、川崎病の症状が出ている時には特定の免疫グロブリン分子が増えていること、そして、病状が回復した時には、それらの免疫グロブリン分子が血液中から、消失していることを報告した。

Immunoglobulin profiling identifies unique signatures in patients with Kawasaki disease during intravenous immunoglobulin treatment

急激な重症化には、免疫に影響を与えるサイトカインという種類の分子が関係していることも示唆されている。同じコロナウイルス由来のタンパク質でも、HLA分子の種類が異なると、それぞれに結合する分子(抗原)が異なるために、免疫反応は患者ごとに異なってくる。BCGの接種が重症度に関わるかどうかもまだわからない。

単にウイルスを調べるだけでなく、ここの患者さんの免疫反応を知ることが感染症、特に、重症化の仕組みを知るために重要だ。

言うまでもなく、感染症対策には科学が必要だ。

PS:アクサ生命が、内閣府のプロジェクトで作った(日立、日本IBM、米国のSensely社)人工知能アバターによるコロナウイルス感染相談を保険加入者に提供することを始めてくれた。感謝!


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年5月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。