コロナ渦中に政局的な話をすることは時節柄いやらしさもあるが、政治的にウブな人には今回の拙稿は読まないことを勧める。しかし、政治家のリアルを敢えて語ることは、有権者の投票判断のプロセスに重要だと思うので敢えて空気を読まずに書く。
大阪に一歩先んじられた「出口」アピール
ここ数日、私は小池都知事の対応が不思議でならなかった。“崖から飛び降りる”のが好きな小池氏にしては、よく言えば慎重、悪く言えば出足が鈍く見えたからだ。
それは「出口戦略」に関して、大阪府の吉村知事が一足先に「出口戦略の大阪モデルをつくる」と明言してから色濃くなった。吉村氏が副代表を務める維新の国会議員たちも、「大胆な保証を含めた出口戦略」(音喜多駿氏)を唱え、あるいは、政府が全国一律で検討中の緊急事態宣言延長に「47都道府県のうち3分の2程度は解除できる」(馬場幹事長)と疑義を呈しているのに比べると、このまま安倍政権と同調したまま、「経済活動再開」がおざなりになって倒産、自殺者続出となれば、再選が確実視されていたのが高転びに転ぶ可能性もゼロではないとすら私には思え始めた。
維新が出口戦略を強調しているのはもちろん、事業者の悲鳴が限界に達しつつあるからだが、思惑は別として有権者への「見え方」としては、出口戦略に動きが鈍い安倍政権との差別化につながる。
もっと嫌らしく言うと、差別化を突き詰めることは、選挙マーケティング的には、「安倍一強」ブランドを攻略する糸口だ。ここにきて維新は(表向きは否定するだろうが)創業者の橋下氏も含めて、出口戦略の世論をリードすることで存在感を打ち出す思惑はにじませている、と私は見ていて、「アフターコロナ」「ポスト安倍時代」への布石としては“合理的”に思う。
「ステイホーム」マーケティングに執心
小池氏の政治的状況に立ち返ってみると、現下の最大の目的は都知事選での再選だ。さらに「その先」に巷間言われ始めたポスト安倍の座も視野に入れるとなれば、安倍政権との違いを示す「差別化」が必要だ。毎週の定例会見のここ1か月の議事録を見ると、「出口戦略」というワードが彼女の口から出たのは、緊急事態宣言発令前日の4月6日の1度だけ。ただ、この段階では感染対策最優先でのニュアンスだった。
その後、ぶら下がりの議事録がないので、全てを確認できるわけではないが、基本は「3密解消」「ステイホーム」路線だ。政界きってのメディアプロデューサーだった小池氏らしく、議事録で「マーケティング」という言葉が数度出てくるのが印象深い。
流行に乗らない層が5%がいるという理論(イノベーター理論のラガート層のこと?)を持ち出して、「この5%の人たちをどうやって動かすか」(4月23日)と述べるなど、ステイホームの周知徹底に神経を尖らせている。
もちろん、この段階では感染拡大防止が最優先なのは当然だ。ただ、安倍首相が4月29日の国会で、緊急事態宣言を1か月程度延長で調整していることを述べた時期から、飲食事業者などから出口戦略渇望は危機的なまでになった。政府の動きが鈍いのを尻目に、吉村知事が「出口戦略の大阪モデル」を先に発信しはじめても、小池氏はおととい(1日)の定例会見のやりとりを見る限りは、大阪ほど踏み出してはいない。
MXテレビの記者から「(緊急事態を)1カ月ということで早めに、早く終わらせたかったのでは」という趣旨で問われて、「それは誰もが思っているのでは」と返しつつも、「私権を妨げないことで、結果として、不便であるとか、経済を縛るということが長くなった場合、一体どうなのかという、ある意味とても深遠なテーマ」といささか他人事めいたな物言いをし、前述のステイホーム周知のマーケティングの話を繰り返していた。
“However”…お膝元の悲報も影響?
しかし(…小池氏風に言えばHowever)、きのう(5月2日)になって小池氏は出口戦略に舵を切り始めたように見える。産経新聞によると、西村コロナ担当相や各県知事らとのオンライン会議の場で「出口戦略を考えないといけない。地方それぞれの事情があり、それぞれの知事のやりやすい形で行うことが拡大防止、経済の復活につながる」と述べ、特措法での知事の権限拡大を要望した。権限拡大自体は、小池氏は以前から述べていたが、その前日の定例会見での発言と比べると、ギアを明らかに加速させている。
ここでもあえて下衆の勘ぐりをすれば、出口戦略を言い出すタイミングを推し量っていた中で、やや慎重だった小池氏を取り巻く状況に変化を促すいくつかの要因があったのではないか。政治報道の観点からすれば、独自の出口戦略については、大阪に(具体論はまだ無いが)先を越されてしまった感はあり、これ以上の遅れは批判につながりかねず、寸手のところでの変わり身だった。
この局面を見る限り、小池氏が大好きなマーケティングを本職としている田端信太郎氏の太鼓判を貰わずとも、都知事選での高転びリスクから、ぶっち切りでの再選を確実にしたのは間違いない。
直前には「悲報」もあった。30日夜、練馬区北町の老舗とんかつ店の店主が焼身自殺を図ったとみられる事案が発生し、この店主がランナーとして選出されていた聖火リレーが延期となり、店もこの休業を余儀なくされ、周囲に悲観的な話をしていたという報道がこの日、流れた。
この練馬区でも「北町」というのに私は注目した。同区は衆議院小選挙区の東京9区と10区に分かれるが、北町は10区。つまり、小池氏の衆議院議員時代の選挙区なのだ。ひょっとしたらだが、本人ならずとも議員時代の事務所関係者が商店街との関係構築の一環で接点があってもおかしくはない。
チラつく公明党の影
もう一つ、小池氏を取り巻く政治的事情で忘れてはならないのは公明党との関係だ。
すでに公明党が「都民ファーストの会より小池都政を実質的に動かす与党会派」(自民党関係者)というのが政治プロの一致した見方であることは何度も書いてきた。そして、出口戦略の絡みでいえば、公明党の支持基盤には創価学会員の中小零細事業者が多い。
都議会公明党は1日に事業者への財政支援などを盛り込んだ緊急要望を行っており(参照:公式サイト)、今後も小池氏を突き上げていくだろう。ちなみに小池氏は要望に「ありがとう。この提言で都民のニーズを知ることができる」と謝意を示したそうだ。
公明党を巡っては、国政で、安倍政権が条件付き30万円給付の閣議決定をひっくり返し、10万円一律給付に舵を切らせたことで著しく存在感を高めている。そして都政でも先頃、副知事人事を巡っての「暗闘」があったばかりだ。
小池氏が当初、武市敬・財務局長を副知事に昇格させる案は読売が特ダネで報じて本決まりかと思いきや、公明党が難色を示したことは上記で書いたとおり。交通局長の不慮の死去も重なって一悶着あったようだが、この人事案自体は時事通信が28日になって読売を1週間遅れで追いかけた点からすると、決着したのかもしれない(その代わり局長も含めた幹部人事と公明党との関係性に注目)。
どちらにせよ、小池氏は目先のコロナ対策、そして夏の都知事選、さらには都知事選後の国政復帰、二階幹事長との連携による天下取りなどすべて成就するには、公明党の存在抜きでは語れなくなりつつあるように見える。
なお、それは小池氏への影響だけではない。安倍政権が緊急事態宣言の野放図な1か月延長を見直し、出口戦略を明確に描けるかどうかは、公明党が大きなカギを握っている。
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