韓国の新型コロナ対策については、最初のころの大失敗のことを忘れては困るが、その後は、かなりうまくいっているようだ。日本の場合は、そもそもいちども大流行してないので、参考にならないから、一度地獄をみてから這い上がった韓国が参考例として重宝されているようだ。
さらに、韓国の場合には、2月に中国発の新型ウイルスが入って大流行したときに、世界中から出入り差し止めになったので、現在、世界を恐怖に陥れている欧州発の流行の方は、そもそも、入って来なかったという怪我の功名もあった。
しかし、韓国での成功例にはいろいろ参考にすべきことは多いので、少し、細かく韓国のケースを調べてみた。
まず、成功の原動力となったのは日本ではPCR検査の広汎な実施だといわれるが、それは、日本政府を攻撃するための説明で、世界で最も厳格な 「住民登録番号」(マイナンバーカードと呼ぶ)の運用こそが決め手だった。
制度の沿革
1968年、北朝鮮の武装ゲリラによる青瓦台(韓国大統領官邸)襲撃事件があった。これをきっかけに、身分確認と統制が目的で創設された制度だ。導入当初は個人情報の収集やプライバシー侵害を恐れて民主派などで反対する声も多かったが、便利な身分証明として国民生活に浸透しそのまま利用されている。
制度の概要
韓国では出生届と同時に13桁の番号が割り振られる。番号には生年月日、性別、出生地などの個人情報が含まれる。国民は17歳になると「マイナンバーカード(住民登録証)」の発行を受け、この時、全ての指の指紋を登録し、親指の指紋は住民登録証に表示されている。
登録番号は、医療保険、国民年金、日本の住民票に当たる住民登録謄本、戸籍謄本およ・抄本、軍隊への徴兵通知・連絡、運転免許証、自動車所有者登録などの行政サービスを利用する際に必要である。
またこのマイナンバーカードは身分証明書でもあって、飲食店では年齢確認のために提示を求められるし、登録の必要なネットサイトを利用する時にもマイナンバーを入力するのが一般的だ。
韓流ブームによって、韓国のサイトを利用したいという日本ファンが韓国のマイナンバーがないので利用できないという。まさに、「これ一枚で何でもできる」、「これがなければ何もできなくなる」のである。そして、これがスマートフォンと合体してますます便利になっている。
学生生活にも欠かせないITと住民登録番号
大学や高校では、学生の出欠や成績、履修科目、卒業証書などの発行にも使われる。受験した学校のホームページにアクセスし受験番号と国民番号の入力で合否の確認する学校も多い。高校や大学では、直接、学校に行かなくても在籍確認や成績証明・卒業証明を取り寄せなどネット上でさまざまな手続きができる。手数料は、クレジットカードまたは携帯電話に加算しての決済もできる。
韓国では市役所での証明書発行などは、区役所の出張所にあたる洞事務所で処理されるが、地下鉄の駅やターミナル、ショッピングモールなどにある自動販売機のような機械で。兵役証明書、住民登録証の発行、住民登録、自動車の登録原本や不動産の登記簿謄本の書類発行までもできる。手数料はクレジット決済である。
相続手続きも簡単にできる
面倒な相続手続きも、被相続人の死亡届を出すだけで行政側が遺産を把握し、7~20日以内に相続人が相続できる遺産、および相続税の額が通知される。
国税庁が開設した「ホームタックス」のページでは、給与所得、利子所得、医療費支出、家族の所得、源泉徴収された金額などを、行政側が住民登録番号で把握しているので、計算が簡単に行える。
また、韓国国税庁は今年、Web上に「ホームタックス」を開設し、どうすればより多く税金が還付されるかを個々の収入と支出に合わせてシミュレーションできるサービスも提供しているし、本人は手続きしなくても、多く納め過ぎたら自動的に還付されるし。資格を満たしているのに福祉制度に申し込んでいない人には、行政から案内が来る。
運転免許証発行の際の視力検査も、2年以内に区の健康診断を受けた人は、記録が警察庁と道路交通公団の情報とひも付いているので、不要になっている。
これが、国連の「電子政府ランキング」で3回連続1位を獲得した原動力だ。
医療などでの利用
行政サービスだけではなく、銀行での口座開設、携帯電話やインターネット接続の申し込み、有料放送への加入にも住民登録番号が要る。学校での子どもの出席や成績、学習管理の記録もひも付けられている。
健康保険証、診察券、お薬手帳もすべてマイナンバーカードと紐付けられているから、病院には住民登録証だけあればよい。
病院の受付でマイナンバーカードを出したら、患者が健康保険に加入しているのか、初診なのか再診なのか、これまでの通院記録を把握できる。現在は、こうした情報を病院ごとに管理しているが、全国の病院の医療記録をまとめて行政データベースで一括管理することになるだろう。
逆に、韓国の住民登録の法律は罰則も厳しく、マイナンバーを所持することはもちろん、引越し後に転入届を出さず、住民登録証に新住所が記載されていないとか、実際に居住していない住所で住民登録したり、17歳になってもマイナンバーカードの発行を申請しないと過怠料が課される。
問題点と対策
もちろん、情報流出も頻繁だ。焼き芋の入った袋が、保険会社の顧客の氏名、住民登録番号、住所などが書かれた用紙だったなどという事件もあった。
マイナンバーは、13桁だが、最初の6桁はその人の生年月日で、性別、生まれた地域などを表す7桁の番号が並ぶのだが、日本のマイナンバーのように家族間でも統一性のない12桁の番号で構成されていうような方式にしてはという声もある。
電子政府やネットバンキングのでのサービス利用の際に住民登録番号に加え、政府が認めた認証機関の発行する「公認認証書」という本人確認のための電子署名が必要だ。
この署名がインストールされている端末からしかサービスにアクセスできない仕組みになっている。
銀行は、ハッキング防止策の一環として、海外のIPアドレスによるネット経由での振り込みや、その他の手続きを利用できないらしい。個人の出入国情報と口座情報が住民登録番号で紐づけられているので、口座の持ち主が海外にあっても本人認証を経ればネット経由での振り込みや口座の開設・解約などができる。
公認認証書の取得:政府が認めた公認認証書発行会社は6社で、銀行が提携して銀行のサイト上で公認認証書が取得できるようになっている。
なお、本人の同意なく個人情報を収集すると、5年以下の懲役または5000万ウォン以下の罰金を科している。
新型コロナとマイナンバー
感染拡大を防止するため感染者の感染経路や自己隔離中の移動経路に関する情報提供を可能にした。感染が確認されたら、感染者のスマートフォンやクレジットカードの使用履歴、監視カメラなどの情報などによって感染経路を把握して公開している。氏名などは公開されないが、家族や友人には分かってしまうらしい。
3月13日に「感染者情報公開ガイドライン」を修正し、感染者と接触した人が出た場所、日時、移動手段は公開だが、住所や職場名は公開しないようにした。ただクラスター化した場合には時間や場所を特定して公開できる。
疫学調査チームは感染が確認された人と接触した可能性がある人の移動経路も把握し、個人に連絡をし、発熱などの症状がある場合にはPCR検査を、無症状の場合には自己隔離対象者として指定し、自宅等で2週間自己隔離させた。
スマートフォンが普及し、韓国ではクレジットカードの使用が一般的でキャッシュレス決済比率は89.1%で他の国の数値を大きく上回っていので位置情報を把握することはそれほど難しくない。
欧州からの流行の伝播を抑えられたのも、マイナンバーカードが威力を発揮している。4月1日からは全ての入国者に2週間の自己隔離を義務化したが、入国者は入国審査場の手前に掲示されたQRコードをスマートフォンで読み込み、「自己隔離者安全保護」アプリをインストールさせられた。症状があると検査場所でPCR検査を受け、無症状の人は自宅に帰宅、あるいは、居住地などがない場合は韓国政府が準備した施設を隔離場所として有料で利用させられた。
そして、PCR検査を入国後24時間以内に受けるように命令され、入国してから14日間の自己隔離中は毎日体温などを図り、専用アプリに報告する義務を課せられている。
自己隔離対象者が隔離場所から勝手に動くと、スマートフォンにインストールされているアプリの位置情報システム(GPS)から警報音が鳴らされ、1年以下の懲役または1,000万ウォン以下の罰金が科せられる。
マスクとマイナンバー
韓国政府は2月26日に保健用マスクの輸出を制限し、3月6日からは医療用マスクの輸出を原則的に禁止にした。3月9日からは国民1人あたりのマスク購入量を1週間に2枚まで制限する「マスク5部制」を実施。出生年度末尾によって指定曜日に一定数のマスクが購入できるようにし、薬局は重複購入を防ぐために購入履歴をオンラインシステムに記録した。療養施設や病院の入院患者、高校生までのみ代理での購入が認められた。
この運用では、マイナンバーのほか、「医薬品安全使用サービス(DUR)システム」を応用した療養期間業務ポータルの「マスク重複購買確認システム」」が採用された。
「医薬品安全使用サービス(DUR:Drug Utilization Review)システムは、医薬品の重複処方による副作用を防止するために、医薬品の処方、調剤など医薬品の使用に関する情報をリアルタイムで提供するシステムである。24時間365日体制で運営され、医者は患者の処方情報を健康保険審査評価のDURシステムに入力し、医薬品の濫用や重複調剤有無を確認させられている。所要時間は0.5秒である。
ただ、韓国政府はこのDURシステムをマスクの重複購買防止に活用しようとしたが、過剰な負荷により医薬品の事前点検システムが停止してしまう恐れがあるので、DURシステムを応用して作った療養期間業務ポータルの「マスク重複購買確認システム」を利用した。このことで、マスクを販売する全国の薬局、郵便局、ハナロマート(農協のスーパーマーケット)でマスクの重複購買チェックが可能になったのである。
個人や業者が暴利を狙ってマスクを買い占めた場合にも、2年以上の懲役や5000万ウォン以下の罰金を同時に科することができるようにしたが、そういうこともこのシステムあればこそ可能になった。