PCRが増えなかった原因から考える特措法の改正

陽性患者を割り出さなければ、隔離も、治療もできないばかりか、新型コロナの感染範囲も分からず、手の打ちようがないのは、誰でもわかることです。

そこで、私は2月10日に都民ファーストの会の新型コロナウイルス感染症対策PT座長に就任するとともに、PCR検査の必要性を都に訴え、まずは、都の検査能力について確認をしました。

※画像はイメージです(Dang Tran Hoang/flickr:編集部)

すると、都からは「1日に最大で90件、検査するのが精一杯なんです」との回答があり、絶句しました。この当時、保険適用の見込みもなく、民間検査機関との連携は、ほとんど表面化していませんでしたから、検査といえば、都内では、東京都健康安全研究センターを指していました。

「どうにかならないのか?そんな数で足りるわけがない」と言うと、「検査機器が足りません」という。

そこで、PCRの検査機器を早急に購入し、検査体制を拡充するべき、と担当者に伝え、都民ファーストの会としては、知事への要望書を策定して提出しました。

3月5日に、補正予算が成立し、検査機器を購入することになりましたが、それでも一日300件が精一杯だと言うのです。理由は、人員不足でした。機器があっても、それを使える人がいないというのです。

一方で、保健所が、主な依頼先としてきた都立の健康安全研究センターの検査能力が限界であることは2月から分かっていたことなので、民間検査機関との連携が必要であると訴え続けてきました。これには、厚労省の判断が必要でした。

厚労省の決定で、保健所を通さずに、病院の医師が直接、民間の検査機関に依頼できるように、保険適用になったのは、ようやくこの頃、3月6日のことです。

ここから、少しずつですが、PCR検査が増えていきます。

この頃、私は、PCR検査が増えないのは、保健所が主な依頼先にしてきた、公立の検査機関のキャパが小さいからであり、それを増やすか、民間検査機関との連携を増やせば、PCR検査数は増えていくものだと信じていました。

参考までに、韓国のPCR検査数が人口比で世界最多である理由の一つに、公衆保険医の数の多さが挙げられています。徴兵制のある、韓国では、医学部を卒業した男性が三年間、地方などで診療を行うと徴兵が免除されるといいます。今回、PCR検査に公衆保険医として投入された彼らの若手の医師は2700名。対して、日本の保健所に常勤する医師は728名ですから、マンパワーの違いは歴然。この差を埋めるためには、保健所だけでの対応ではなく、民間病院で検体を採取して、直に、民間検査機関に回すしかないと考えました。

しかし、それでも、どうも増えない。

検証を重ねるうちに、あることに気付きました。

それは、検査能力の問題ではなく、病床の問題なのではないかと。

1月28日、厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症を政令で、「二類感染症並み」に指定しました。これはMARSやSARSと同じ扱いということで、それ自体は、妥当な判断だったのかもしれませんが、問題は、その指定のおかげで、感染した患者は全て入院措置になったことです。たとえ、無症状でも。

これが何を意味するかは明白でした。

PCR検査を受けさせれば、陽性患者が次々と強制入院となり、医療崩壊が起きる。だから、受け控えさせなければいけない。保健所をはじめ、保健行政のなかで、こういうサイクルになったとしても不思議ではありません。

このことに気付き、東京都は、病院から軽症者を療養ホテルに移送できるように政令を変えられないかと働きかけ続けました。

4月2日になって、ようやく、療養ホテルへの搬送を可とする政令が厚労省から発令されます。

厚労省サイトより

この決定を待っていた小池知事は178億円の予算を投じて、まずは約2500室(4月末時点)の確保を行い、病院から軽症者を療養ホテル(医師らが常駐)に移送することができるようになりました。今後、都は1万室の確保を目指すとともに、無症状者などは入院を経ずに療養ホテルに搬送できるようにします。

しかし、なぜ、1月28日の決定から、ホテルでの療養措置への移行まで、2ヶ月以上も待たなければいけなかったのでしょうか。

新型コロナの特徴として、無症状の陽性患者が多いことは早い段階から指摘されていました。戦略を練る段階で、PCR検査が増えないサイクルを生んでいたとすれば、公衆保険医の数のせいだけにはできません。

これらの議論をするときに、もちろん、東京都と私たち都議会の責任を抜きには語れません。早く気づき、対策を講じるのが、私たちの責務であるのは当然ですが、実際、感染症において、都と保健所の関係は、上下の関係ではありませんでした。むしろ並列と言ったほうが適切かもしれません。

詳しくは今後、寄稿しますが、感染症において言えば、保健所は厚労省の下にあり、都も厚労省の下にありますので、都の下に保健所があるというわけではありません。

いくら都がPCR検査を増やして欲しいと伝えても、厚労省の入院措置の方針が変わらない限りは、検査数が増えない構造です。

実は、検査数の速やかな報告にも、この問題が都に突きつけられました。

なんと、民間検査機関に回ったPCRの検査数は、1週間経たないと都に報告が上がってこないというのです。それで、以下のようなやりとりになりました。

「どうしてこうなっているのですか?」

「民間検査機関が都に報告する義務や、仕組みがないからです」

「では、陽性患者の数は?」

「それは民間検査機関からも上がってきます」

「陽性の数は上がってくるのに、検査数は毎日上がってこないということ?」

「はい、そうです」

「それでは、正確な陽性率を弾き出せないのでは?」

「その通りなので、今、電話で、都から直接、各医療機関に問い合わせて、確認作業をしています」

「えっ、直接、電話ですか?しかも、それ、保健所が集約して都に報告するのではないの?」

「今は、保健所を通さずに、民間検査機関に回っている検査が多いので」

つまり、都に一元的に、毎日、検査数が報告される仕組みになっていないのです。もちろん、都が早期にシステムを構築して、民間検査機関が毎日、デジタルで報告できるようにするべきなのは言うまでもありません。そのことは、私たちも都に求めています。一方で、特措法をはじめ、政令、マニュアル、対処方針と、国のルールが蜘蛛の巣状態で張り巡らされている医療行政にあって、保健所や民間機関が、どこにも定められていないことにどこまで運用面で都の指示に従っていただけるのか極めて不透明です。

感染症対策は、国家的な取り組みによってのみ、解決できることに異存はありませんが、日常的には、都の下にある、保健所行政が、感染症の際には、事実上、厚労省の下に置かれ、都との指揮命令系統が不明瞭では、対策の先手が打てません。

すでに、特措法の改正をもとめる声も上がり始めています。

都政をあずかる私たちは、法改正を待たずに、運用でできることは、矢継ぎ早に運用で対策を打っていくことに変わりはありませんが、都道府県知事に一定の感染症対策の権限を委譲されることを望みます。

この戦いは永く、そして、これからは地域事情に応じた対策が急務であるからです。全国一律、国の指示待ち状態では、早期終息が遠のくばかりだと思えてなりません。