「韓国は超厳格マイナンバー制で成功」では、韓国の「成功」はPCR検査よりむしろ人権もなにもない超厳格なマイナンバーカード制度のお陰であるということを書いたのだが、さらに、徴兵制による若い医師の徴用もあった。それから、最初の段階での大失敗の結果として欧州諸国などから出入国を止められたことによる「怪我の功名」もあった。
ところが、そういうことを日本のマスコミは決して報道しようとしないので、少し、これまでの動きをまとめてみたい。
昨日の記者会見で、安倍首相は「国立感染症研究所によれば、中国経由の第一波の流行は抑え込むことに成功したと推測される。欧米経由の第二波も、感染者の増加はピークアウトし収束への道を進んでいる。みんなで前を向いて頑張れば、きっと困難も乗り越えられる」と述べた。
まだ、詳細が確定したわけでないが、日本は武漢発の第一波は乗り切ったが、欧州発の第二波を防ぎ切れずに3月下旬来の状況のようなことになっていることはまず間違いない。欧米で流行したものは、1月以来、中国や韓国で猛威を振るったものが強力に変異した者であることもほぼ確実とみられる。
そして、韓国は日本よりは、この第二波の襲来をよく防げたのであるが、その背景には欧州のほうから交流をストップされていたことの怪我の功名が主因なのである。
欧米は日本を閉め出さず韓国だけストップした
フランスの例で見ると、「フランス首相府及び連帯保健省は,中国,シンガポール,韓国及びイタリア(ロンバルディア州とヴェネト州)からフランスに戻ってから,14日以内に呼吸器感染の兆候が発生した場合,通常の医師・病院にかからず、15(SAMU:救急医療サービス番号)に電話するよう呼びかけた」のは、2月26日である。
それに対して、日本に対しては、3月16日に,「EU共通の決定により明日(17日)から,EU及びシェンゲン圏への入境を閉鎖し,EU域外の国とEU圏内の国の間の渡航を30日間停止」したときである。
アメリカについても、2月末にイラン渡航者の入国制限と韓国・イタリアには渡航中止勧告をしたが日本は含まれてなかった。
それに対して、日本は、2月1日に中国湖北省に滞在歴のある外国人の入国を禁じたのを皮切りに、韓国大邱(テグ)市、イランのテヘラン州などを入国禁止にしてきた。今月9日には中国、韓国両国からの入国者すべてに2週間の待機要請を開始し、10日にイタリア北部とサンマリノ全域に滞在歴のある外国人に対する入国禁止措置を決めた。
このように、韓国の場合は、ヨーロッパやアメリカから閉め出され、結果として、これらの国との交流が絶たれたのである。それに対して、日本は欧米からの入国制限が日本人0の入国制限に発展するのでないかと怖れて対応がやや遅れたということは指摘できるかもしれないわけで、いずれにせよ、韓国がヨーロッパからの第二波を防げたのは、むこうから閉め出されたお陰である。
入国後の追跡も韓国は鉄壁の統制
そして、4月1日からは海外からのすべての入国者を14日間隔離した。海外からの入国者は、症状がある場合は空港で検査を受け、症状がなければ韓国政府や地方自治体が用意した「臨時施設」に移動し検査を受けさせた。
検査の結果が出るまで1~2日間は施設に隔離され、陽性なら病院に入院・治療を受ける。陰性だと帰宅して14日間、自己隔離が義務付けられる。海外からの入国者が規則を守らなかったら1年以下の懲役、または1,000万ウォン以下の罰金が科せられる。
韓国政府は3月22日からヨーロッパからの入国者全員に対して全数検査を実施したものの、入国者が予想を上回って検査人員が不足したので症状がある場合は空港で、症状がない場合は帰宅してから3日以内に検査を受けるように変更した。
なお、検査費用・治療費は韓国政府が負担するが隔離施設の利用は自己負担であって、国が面倒見てくれるというような甘い話はない。
日本の場合には、検査の結果が出るまで空港に留まるようにということが要望に留まらざるを得なかったし、また、それを破っても、さらには、2週間の自宅待機を破ろうが韓国のようにGPSで追跡する制度も、罰則もなかった。
MERSの教訓
韓国は、2015年5月に中東呼吸器症候群(MERS:マーズ)の感染拡大を許しは186人が感染し、38人が死んだ。これに懲りて、感染症への対応体制が整備され、これが今回は役に立った。
「国民安心病院」とは、院内感染を防ぐために、呼吸器疾患を抱えている患者を病院の訪問から入院まで、他の患者と分離して診療する病院である。発熱、咳、呼吸困難などの症状があるもので、海外、大邱・慶尚北道地域への訪問、感染者との接触がない場合には「国民安心病院」を、疫学的関連性がある場合には「選別診療所」を訪ねて診療を受けるように奨励した。
2020年3月31日現在では、全国341カ所の「国民安心病院」や612カ所の「選別診療所」で新型コロナウイルスの検査や診療が行われた。
さらに、「ドライブスルー検査」や「ウォーキングスルー検査」も実施された。屋外に設置されている検査施設を訪ねて、車に乗ったまま検査を受けるのが、「ドライブスルー検査」で10分ほどかかる。
1人ずつ歩いて公衆電話ボックスの形をした透明の検査ブースに入り、待機している医師が外側から検体を採取する検査方式が「ウォーキングスルー検査」である。ウイルスが外部に漏れないように内部の圧力を外部より低くする陰圧装置が設けられ、検査時間は3分である。3月16日にソウル市の病院で初めて導入された。さらに、3月26日から仁川国際空港で開放型の「ウォーキングスルー検査」が実施されているという。
徴兵制で危険な医療にも過酷な条件で若い医師を投入
もうひとつ、韓国の対策で大活躍したのが、社会服務要員、軍人、公衆保健医という兵役義務を担う「若い男性」たちである。社会服務要員とは兵役の代わりに居住地近隣の政府機関や公共施設で仕事をする人たちだ。彼らは薬局の手伝いに、軍人はマスク工場での包装や運搬作業のためにも動員された。
兵役の代わりに離島や山間地で医療活動を行う公保医たちは、コロナ感染被害が拡がった大邱や慶尚北道に宿泊所も手配されていない状態で派遣された。1000人以上の公保医が劣悪な条件下で働いた。
国家の命令だけで否応なしに動員できる動員が、韓国の「迅速な」対応を下支えしていたのであって、日本が韓国のようにするためには、徴兵制度の実施と、そのもとで、医学部の学生や医師資格をとって間もない若い医師を3年間、軍で使えるようなシステムが必要なのだ。
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