今週のつぶやき:全日空3つの誤算

岡本 裕明

当地、バンクーバーを含むBC州に在住の方には6日に発表された政府の緩和プランに驚きに近い受け止め方をした人もいるでしょう。カナダの連休明けである5月19日から小売り、レストラン、飲み屋、病院、会社など多くの経済活動や社会活動が制限付きながら復活できるからです。

カナダの他州に比べはるかに早いです。理由は感染者数が他州に比べもともと少なく、更に低減傾向が続いているからです。勿論、人々のコロナに対する警戒感はそう簡単に取れませんが、比較的大きな都市を抱える州の緩和プランとしてアメリカの主要州と共にその推移に注目が集まりそうです。

では今週のつぶやきです。

失業率と株価

4月25日の記事に個人的見解として「アメリカ4月度の失業率予想は15-18%で労働参加率次第」と申し上げました。今日発表された統計数字は14.7%、市場の事前予想は16%程度でしたので「思ったより悪くない」という印象があり、株価も朝から飛ばしています。この計算の差異はやはり労働参加率で今回のコロナで就労をあきらめた人が倍増しているためで仮にその人たちがあきらめなければ失業率は21%程度になります。

Dan Gaken/flickr

私は基本的にポジティブ思考です。この先についても失業者数2310万人に対して一時解雇者数が1810万人と8割近くを占めるため、経済の回復と共にそれらの雇用がぐっと戻るとみています。よって今回の失業状態を1930年代大不況と比較する動きがありますが、そもそもの背景が全く違うため、表面上の数字以外に比較する意味合いはありません。回復についてはテクニカル面で労働参加率の緩やかな回復が見込まれるため、数字上の目立った改善には2-3カ月かかるいわゆるU字回復となり、秋には10%を下回るとみています。

今後ですが、昨日の記事の「今再びインフレが起きるか」という議論をもう一度振り返ればドルの位置づけが一つのキーになるのだろうと思います。ドル過信化の状況にあることは疑いの余地がないのにそれを代替する手段や国家や通貨がないので仕方なくドルとその本家であるアメリカの株式などに資金が集まりやすいという構図は目先続くのでしょう。

ただし、いつまでもそんなことを言っていては中国元のデジタル通貨化の準備がものすごい勢いで進む中、リブラなりなんなりを形作らないとドルの威信が崩壊することもありえます。今、我々は戦後最大の危機だと言っていますが、ドルが支えられなくなった時こそ、本当の危機になるはずです。ある意味、今のドル中心の世界経済の体制こそ最大の懸念があるはずです。

プーチン政権20周年

5月7日が正式な意味でのプーチン政権20周年。正式な意味とは広義ではエリツィンが99年末で辞任し大統領代行をしていた4カ月がおまけでつくという意味です。大国を47歳という若さで率い始め、現在67歳となるまでよく君臨しているものだと思います。が、その間、氏の統治が成功裏だったかと言えば総合判断ではNOなのでしょう。特に経済的な部分についてはGDPを見る限り、見るも無残に20年間ほぼ、一本調子で下がり続けています。

プーチン大統領(2020年1月15日、ロシア連邦大統領府公式サイトから)

理由はプーチン氏は経済音痴ではないかと思わせるほどほとんどめぼしい努力も成果もなく「ここ掘れワンワン」的な資源頼みの国政だったと思います。近代化には程遠いし、せっかく日本がシベリア開発で金銭的援助や商社との取り組みもあるのに十分機能していません。基本的にプーチン氏の発想は国土を通じた国体維持やアメリカと敵対するというよりあまのじゃく的なスタンスが強すぎてグローバル化の中で弾みをつけられなかったとみています。

ここにきて同国のコロナもひどくなり、経済悪化の中、懸案のプーチン氏が2036年まで大統領に就ける憲法改正案の国民投票待ちの状態となっています。ただ世論調査で支持率は59%程度で就任当初以来の低い水準となっています。一般的手法としてはこのようなときには国民が一体感を示せるような戦争などを戦略的に行うことは多々あり、プーチン氏が政治生命のために誰かに喧嘩を売る可能性はあります。

あるとすれば果たして誰なのでしょうか?アメリカではないと思います。中国には喧嘩を売る可能性はありますが、その理由に北朝鮮をネタにするかもしれません。ソ連/ロシアの歴史は広い国土の東と西の政策をシーソーのように使い分けるところにポイントがあります。本気ならば今は攻めやすい東のような気がします。

全日空の苦悩

航空各社はコロナで最も影響を受けた業界の一つでありますが、ここにきて日本航空と全日空が比較されることが多くなりました。発表された3月期決算を見ると売り上げは日航の1.4兆円に対して全日空は2.0兆円なのですが、営業利益は1006億円に対して608億円、経常利益は1026億円に対して593億円と差をつけられました。過去数年、両者の利益は伯仲していただけにここにきてポーンと差をつけられた感があります。収益性は18年3月期をピークに2期連続で悪化、更にアナリストは21年3月期は赤字を予想しています。

ANA公式インスタグラムより

全日空の今回の試練は3つの誤算とみています。1つは旅客路線と航空機への積極投資の裏目、2つ目が力を入れていた航空貨物が米中貿易戦争とコロナでガタガタになり特に沖縄貨物ハブが全面運休となったこと、3つめがLCCの不振です。特にピーチは暴動のあった香港と日本ともめる韓国線が多かったことが影響しています。

もちろん、経営姿勢として攻めていたことは評価されますが、オセロのようにことごとくひっくり返されるとどうにもならないということなのでしょう。4月10日号の日経ビジネスに片野坂真哉社長への編集長インタビューがあったのですが、非常に苦しいというのが行間にあふれ出ていて社員ではない私まで心配になってしまうニュアンスでした。

国内線が85%減便の中、国際線の再開がキーだろうと思いますが、世界どこを見てもどれだけ緩和政策が進んでもそれは国内に限定され、国境の扉が開くのは夏以降、しかも当初はビジネス客が主流で観光客は恐る恐るになるとみています。リーマンショックの時もそうだったのですが、大企業の経営サプライズは忘れたころにやってきます。今回の全日空の経営側の焦り具合は同じ業界の日本航空のそれとは圧倒的差があり、懸念材料になるかもしれません。

後記

学校の9月始業に向けて本格始動し始めています。ただし来年の9月からということで1年ちょっとの時間ギャップがあります。夏までに議論をまとめ、関連法案を秋に出すという流れです。実現するなら今の小学校5年生、中学2年生、高校2年生には直接的に、ビジネス側は塾、私立の経営、企業の採用計画は全面見直し必至でしょう。でもこれを逃すとまたチャンスがなくなります。やるならしっかりやってもらいたいものです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年5月9日の記事より転載させていただきました。