最近、BCとACという表現を見かけます。Before Corona, After Coronaです。コロナの前後で社会や生き方、価値観、仕事の進め方などが変わると予想するオピニオンリーダーは多いようです。多くの経営者もそのような発信をしています。コロナが収まった時、我々の社会は本当に変わるのでしょうか、変わるとしたらどう変わるのでしょうか?
グローバル化への揺り戻しが起きています。これはコロナのはるか前からその傾向はありました。Gゼロの時代と言われ、トランプ大統領やフィリピンのドゥテルテ大統領が就任した時、世界の潮流は大きく変わりました。
その以前には世界の工場としてグローバル化の枠組みの中にあった中国が経済成長に伴い、その枠から飛び出し、2014年には「一帯一路」なる広域経済構想をぶち上げ、グローバル化の均衡はバランスを失い始めていたと思います。
更に欧州などでは移民、難民問題を端に各国で極右政党が台頭し、英国はEUを離脱する運命となりました。「仲良く手を取り合って」というのは欺瞞だったのでしょうか?
私は当時から国の成長力や歴史背景、宗教的支配などを考えれば政治色の強い「お友達意識」は長く維持できないし、時間とともに力関係や国同士の綱引きで総花的な外交や通商は進みにくくなると何度も指摘したはずです。政治力において地球儀ベースのお仲間意識がなぜ維持できないかといえば、主従関係ならまだしも対等な位置づけであればあるほど細かい点でぶつかり合うからであります。
中国は世界の工場から経済的に成長し、ファーウェイなどの技術力はアメリカが意識せざるを得ない状況になったこと、そして多くの欧州諸国やアフリカ諸国は中国がばら撒く「からし入りの飴玉」に飛びつき、ようやく「甘くなかった」と気がつき始めたのです。コロナはその背中を押しただけ、ともいえます。
しかし、私は識者や経営者が言うほど世界が急激に変わるとは思っていません。上記のストーリーは政治的グローバリゼーションの話であってビジネスベースではグローバリゼーションは更に進むとみているからです。事実、通商貿易に的を絞ったTPP11は成立し、便益を享受しています。
イアン・ブレマー氏は企業のサプライチェーンが自国に戻ると主張します。本当でしょうか?グローバル化は人、モノ、情報、マネーなどあらゆるものが地球儀ベースで飛び交うことで成り立ちます。今、コロナで人の移動は制約されています。
しかし、モノも情報もマネーも普通に動いているのです。私はこれから国境をまたいだM&Aは急増するとみています。なぜならマネーの偏り、つまり強度な資本主義が確立されている現代社会においてマネーの弱肉強食は更に勢力を増すからです。
今回のコロナで窮地に立たされている企業はいくらでもあります。日本の名だたる大企業にも足腰がふらついているところは片手では足りないでしょう。それらの会社はコロナでたまたま躓いただけで本質はよいものを持っています。私のような肉食派なら全部食べたいぐらいで、そんなチャンスを虎視眈々と狙っている資本を持つ会社はたくさんあるのです。
リーマンショックは2008年でしたがその背景はアメリカの住宅バブルでした。住宅市場だけを見ると価格は06年春に、供給数は07年夏にそれぞれピークを打っており、真の問題はそれから1年も経って発生しました。これは上述の国家間のグローバル化が機能しなくなったケースと時間的ギャップがあった点が似ています。
今回、コロナになって「これは大変だ、世の中は変わる!」と異口同音に叫んでいますが、リーマンショックの時も世界は変わると皆、一様に述べていました。
ところが、リーマンショック後のアメリカの住宅価格は12年から急速に回復し、今ではその当時の価格を凌駕しています。Before LehmanとAfter Lehmanで何が変わったかといえば金融におけるより強固なシステムの構築や貸し付けルールの厳格化であって社会が一変するような根幹の変化は何も起きていないのです。
私はコロナに関して当初から「これは疾病。だから今をじっと待つしかないけれどそこを過ぎると元に戻る」と主張していました。確かに疾病の期間は思ったより長くなっています。が、我々はコロナで大きな教訓を得たのです。
それは、もしまたこんなことが起きたら二度とこんなことにならないよう対策をするという教訓であってもう二度と人と接しない、オンライン万歳、飲み会悪玉論という極論は一時的にはあったとしてもそれは収まり、元のさやに戻るとみています。
我々が築き上げてきた日常社会、経済活動、社会の組成はそんなに簡単に変えられないのです。それは仕組みの問題ではなく、人間の原点であるからなのです。出張やミーティングのやり方は変わるかもしれないけれど企業が主導するグローバル化は次元を変えて進化すると考えています。
あえて言うなら国家間のグローバル化と民間のグローバル化のスピードの相違と言えそうですが、時間と共にそれはまたいつか、融合していくのでしょう。。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年5月12日の記事より転載させていただきました。