中国湖北省武漢市で新型コロナウイルスが発生し、まだ半年も経過していないが、世界に400万人以上の感染者を出し、30万人余りの死者を出す世界的大流行(パンデミック)となっている。同時に、ここにきて新型コロナ関連情報でその発生源、感染問題などでフェイク・ニュースが世界を闊歩し、新型コロナの“事件の核心”をぼかしてきた。
世界のウイルス専門家や政治家がフェイスブック、ツイッター、ユーチューブなどでのフェイク・ニュースに警告を発し、必要ならばその削除を要求している。新型コロナは感染病だ。人間の命に係わる病気だけに、感染症に関するフェイク・ニュースは命取りになる危険性も出てくる。それだけに、新型コロナ関連のフェイク・ニュースの氾濫は看過できない。
オーストリア代表紙プレッセが13日付で報道したところによると、代表的なフェイク・ニュースは、①マイクロソフト社創業者ビル・ゲイツ氏は自身の慈善団体「ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団」を通じてワクチン製造資金を集めるため新型コロナの危険性を過度に報道させている、②世界大手製薬会社が自社の利益のためにメディアを煽っている、③次世代通信規格(5G)網の通信塔はパンデミックの主因だ、といった種類の情報だ。実際、英国では30余りの5G用送信塔が破壊されている。
冷静になって考えれば、その真偽は分かるが、感染症の場合、人々は冷静に対応することが容易ではない。ウイルスは不可視であり、誰でも感染する危険性があり、致死性もある伝染病だ。多くの人々は不安の虜になる。そして不安はフェイク・ニュースの温床地となるのだ。
武漢発ウイルスの場合、フェイク・ニュースの最初の発信者は、中国共産党政権だ。新型コロナが「人から人へと伝染する」という事実を隠蔽し、感染力を過小評価して世界に流してきたのは北京当局だ。そして欧米諸国で新型コロナの発生源が中国にあるという事実が定着しないように、「米軍が運んできた」というフェイク・ニュースを世界に流している。事実を多数のフェイク情報で包囲することで、事件の核心をぼかす共産党政権得意の情報工作だ。
武漢市のウイルス感染者の病状情報を分析することで治療薬、ワクチン製造を加速させることができる。米国側は「武漢ウイルス研究所」での新型コロナ関連の初期情報の提供を求めたが、中国側はそれを拒否している。中国側は情報の共有を拒否する一方、フェイク・ニュースを世界に流すことで世界をカオスに陥れているわけだ。以上の観点から、新型コロナ関連のフェイク・ニュースの氾濫の第一原因は中国共産党政権にあることは明らかだ。
ここではフェイク・ニュース一般についてもう少し考えてみたい。中国共産党政権だけがフェイク・ニュースを流しているわけではない。ロシアしかり、米国も例外ではない。「情報」が商品化している現在、ワイルド資本主義社会では情報、知識は商品だから、それを独占しようとする企業、グループが出てきても不思議ではない。そして情報社会では、フェイク・ニュースと共に「ダーク・ノレッジ」が生まれてくるわけだ。
ダーク・ノレッジ(Dark Knowledge)は「一部の学者や研究者たちだけが知っている内容で、公開されることがない知識」を意味する。ダーク・ノレッジを所有する人々、学者や専門家は企業や一部の機関から依頼されて研究し、その研究結果を依頼主に報告する。依頼主は主に軍事や生物医学関連企業が多い。彼らが知った知識は一般の社会には公開されない。フィードバックされないから、一般の人には知られない。その非公開の知識量は全体の過半数を超えるという。部外者のわれわれが知りうる範囲は限られているのだ(「『ダーク・ノレッジ』が世界を支配?」2020年1月30日参考)。
例えば、「中国科学院武漢ウイルス研究所」付属施設「P4実験室」(武漢P4ラボ)で研究された新型コロナウイルスの実験結果は絶対に公開されない。実験室で得た情報は全てその資金提供者である中国共産党政権と人民軍に提供される。中国国民は武漢海鮮市場で実験対象となることがあっても、その情報を得ることはない、といった具合だ。
インターネット時代に入り、多くの人々は世界の無数の情報を迅速に獲得できる道が開かれたが、高度に専門化した知識・情報は依然、ダーク・ノレッジとしてある特定の指導者層しか知ることができない。過度に専門化した情報を一般のわれわれが入手したとしても得ることは少ないかもしれないが、その情報が一般の国民に影響を与える内容の場合は公開すべきだろう。同時に、その専門分野の世界では情報の共有を進めるべきだ。
「富の平準化」は久しく叫ばれてきた。情報時代の今日、「知識・情報の平準化」が問われてきている。その際、障害となるのはフェイク情報であり、ダーク・ノレッジだ。特に、前者はウイルスに負けない感染力があるのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年5月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。