与党賃料支援PT「事業継続のための家賃補助スキーム」へのコメント

松田 公太

自民党本部(編集部撮影)

新型コロナウイルス感染症によりダメージを受けた中堅企業に官民ファンドのREVIC(地域経済活性化支援機構)を通じて資本注入を行うという話を自民党幹部から聞いたのが、第二回外食産業の声・ディスカッションの数日前だったと記憶しています。

バリュエーションの問題や議決権の問題(優先株であれば良いのですが)等、いくつか懸念点はあったものの、債務超過に陥りそうな企業にとっては良い施策だと、その時は率直に伝えました。

その後、日本政策投資銀行や日本政策金融公庫が劣後ローンという形で融資をする案も浮上し、これも懸念点はいくつかあるものの(また後日の記事で説明します)、中堅以上の企業に対する支援策は少し前進しているように感じています。

しかし、まだ「案」「検討中」という段階。
資本注入の話を聞いてから約3週間が経っていますが、その間に倒産や廃業は中小から中堅へと広がりを見せています。規模を拡大した上で、一刻も早くの決断と実行を要求します。

2020.4.28 東京商工リサーチ

さて、未知数の支援策は置いておいて、いま正に詳細が議論されている与党案の「家賃補助スキーム」について幾つかコメントをさせて頂きます。

まずは、このコロナ禍から一社でも多くの企業を救うために、一生懸命に働いて頂いている議員の皆様には敬意を表したいと思います。

さて、1枚目の写真(ページ0)は、国会ではよく出回る「名無しの権兵衛ペーパー」です。このスキームをまとめた人が書いたのでしょうが、後で責任を問われないよう出所を不明にするため、日付も作成者の名前もプロジェクト名もありません。

ページ0

内容は、その後に続く3枚と変わらないので、ページ1からコメントします。

与党賃料支援PT ページ1

1. ハイブリッド型の家賃補助制度の創設

②に書かれてある「自助・共助・公助」。これはページ0に書いてある事を強調する為に再度書かれてあります。私も4月11日のブログ(一社でも多くの企業が生き残る為に「家賃支払いモラトリアム法」が必要)に書いたことです。

しかし、「自助・共助・公助」を謳うならば、例え1ヶ月50万円(半年で300万円)だったとしても、お金をあげてしまうより、「家賃支払い猶予(立替払い)」という考え方で、テナントが少額ずつでも返済をしていく方が理念に沿っているのではないでしょうか。他に道が無い個人事業主や小規模企業者以外はそうするべきだと今も思っています。

また、給付の流れとして政策融資(公庫融資・制度融資)が前提となっていますが、融資にとって一番重要なポイントは「使途」です。

元銀行員だった私から言わせて頂くと、「立替払い」をした方が確実で、審査も簡単になります。不動産を所有するオーナーの方がクレディビリティが高いからです(個別のテナントに融資金を振り込む方が、与信判断も使途の管理も難しくなります。オーナーは不動産を持って逃げる事も出来ません)。

与党賃料支援PT ページ2

与党賃料支援PT ページ3

2. 地方創生臨時交付金の拡充と地方での独自の取組への支援

これは良いと思います。これで充足が可能ならば、1社あたり全国一律50万円という不平等をカバーできるかもしれません。但し、言うまでもありませんが、相当規模の交付金が必要になります。返済の必要がない給付金(協力金)なら、ほぼ全社が申請するでしょう。単純に事業所数と平均家賃をかけると半年で約20兆円。その半分の社数が該当するとしたら、予算は約10兆円必要になります。

3. 賃貸借契約の維持への取組み強化

これは裁判所の過去の判例を引き合いに、コロナ禍のような事態の時に不動産オーナーは契約解除を言い出せないはずだとして、政府にその周知を徹底させようとしているものです(民法の解釈)。

これをPTで言い出した自民党の議員(弁護士あがり?)は良かれと思ったのでしょうが、リアルな事業の世界をあまり知らないのでしょう。

確かに最近まで、日本の建物の賃貸借は通常の建物賃貸借契約(普通借家)が一般的でした。そして、普通借家では賃借人の保護が重視されていました。しかし、定期建物賃貸借契約(定期借家)の制度が導入されてからは徐々にその概念が浸透し、今となっては一定規模以上の不動産オーナーは定期借家を導入しています。

そして、その契約の中身は普通借家より厳しく、テナントを退去させたり、退去する際には残りの賃料を全額払わせたり、が可能になっています。私のまわりには、定期借家を盾に強硬な態度をとられていて、猶予・賃料交渉ができないという経営者が多く存在します(因みに、私の会社は7割が定期借家契約です)。

いずれにせよ、与党家賃補助スキームの「全国一律で50万円」という上限は、中堅企業(特に家賃が高い都市部展開をする)にとっては全く足りないものですし、小規模企業(特に家賃が安い地方展開をする)にとっては必要以上の金額かもしれません。つまり平等ではないのです。

もちろん、これで多くの事業主が助かるのはありがたいことですが、より多くの雇用を生み出し、より納税額が大きい中堅以上が置き去りにされたら経済へのダメージも計り知れません。

エリア別や事業所数別の上限設定が難しいというなら、野党案(家賃支払い猶予法案)とのフュージョンか、劣後ローンや優先株での資金注入を幅広に、思い切った額で実現する必要があります。

39県の緊急事態宣言解除と共に気を緩める事なく、これから数日内で明確な施策を決定して頂きたい。そうしなければ、また多くの企業が消えて無くなっていきます。飲食業、その他。お客様に来て頂いて商売が成り立つ業種にとっては、これからが正念場なのです。


編集部より:この記事は、タリーズコーヒージャパン創業者、元参議院議員の松田公太氏のオフィシャルブログ 2020年5月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は松田公太オフィシャルブログをご覧ください。