複数店舗を経営する企業が生き残るために

松田 公太

閑散とする渋谷センター街(HAMANO/flickr)

昨日発表された日本研究経済センターによる4〜6月期のGDP予測は20%減。

残念ですが、私がTwitter上で約2ヶ月前に予想・公表した数値と完全に一致してしまいました (1〜3月期の速報値3.4%減は予想よりだいぶ上でしたが)。

これは戦後最悪の経済状況を表していて、元の状態に戻るまで2、3年はかかるとの見方も増えています。民間経営者としての私の感覚と、様々な指標を元に計算するエコノミストの数値がやっとマッチしてきた感じがします。

このような現状を考えると第二次補正予算は永田町から漏れ聞こえてくる10兆円前後ではとても足りません。緊急事態宣言が5月に解除されたとしても、すぐに需給ギャップが埋まるわけではなく、厳しい状況は続くからです。

特に、大勢のお客様に来て頂くことによって成り立つ事業は、18ヶ月後のワクチン開発まで、以前の状態に戻ることはないでしょう。新しい生活様式や各業界団体が作成したガイドラインを読むと、席数を減らしたり、フィジカルディスタンスを取ったり、衛生管理の工数が多くなったりと、物理的にもオペレーション的にも制限が増えます。

つまり、お客様を受け入れられる上限は最大でも以前の8割程度。その上、感染症に対する心理的な抑制効果やライフスタイルの変化で、お客様が出歩く総数は良くても9割ぐらいになると見込まれています。そこに物理的な制限の8割をかけると、今まで通りの経営では売上が72%にしかならず、損益分岐点ギリギリで経営している殆どのテナント型事業が消滅してしまうのです。

そこで、「家賃支払い猶予」という自助的なコンセプトを打ち出し、多くの経営者の賛同を得て野党の法案共同提出にまで至りましたが、未だ政府与党に取り組んで頂くことができていません。その対案として出て来た「一社あたり50万円の家賃支援」では、1、2店舗を経営する小規模事業者以外にとって焼け石に水です。

何度も言いますが、私は「家賃支払い猶予法」に固執しているわけではありません。その方向性をどうしても政府与党が受け入れられないのであれば、違う形で企業が生き残る施策を打ち出してくれれば良いのです。

その一つの可能性が、前回(5月15日)のブログでも触れた資本政策的な支援。優先株や劣後ローンの活用です

Hideya HAMANO/flickr

4月に、中堅企業に資本注入する案をどう思うかと与党幹部議員に聞かれた時は、その場で「優先株なら良いかもしれない」と即座に答えました。

自由市場の中で闘っている民間企業経営者で、政府のコントロール下に置かれることを良しとする人は殆どいないと思います。しかし、議決権のない『優先株』であれば、経営の自由度は制限されません。

また、契約によって、配当や倒産の際の優先権も抑えることができます。

問題があるとしたら、デューディリジェンス(企業価値算定)をどうするかでしょう。株のバリュエーション(価格)はコロナ前とコロナ後では全く違います。しかし、苦しい18ヶ月間を我慢すれば、また以前の価値に戻すことができると考える経営者もいます。そこの算定を誰がやるかで、バリュエーションも総額も全く違ってきます。たまたま政府高官と仲が良い人が経営していた場合は、恣意的な判断が入り、不公平感が出てしまう可能性もあります。また、企業価値算定には時間がかかりますので、スピードはかなり遅くなります。

一方、『劣後ローン』は、他の債権より支払い順位が劣るローン(融資)のことです。例えば、会社が倒産をして清算する際は、劣後ローンへの返済は一番最後にまわされます。劣後ローンを受けた後で新たな融資が必要になっても、銀行はその劣後ローン(他行であれば)の事は考慮しなくても良いので、貸しやすくなります。つまりローンであるにも関わらず、資本に近い性質を持つために、資本増強的なメリットがあるのです。

そして、その返済を永久にしなくても良いというのが、『永久劣後ローン』です。
金利さえ払い続ければ、永久に元本は返さなくても良いことになります。逆に、返せる時はペナルティー無しで完済や一部返済ができる特約を結ぶこともできます(金利についても一定期間の支払い猶予が可能です)。

問題は、優先株と同じですが、劣後ローンの場合も審査を誰がするかによって与信判断(金額の大小)が変わってきます。家賃支払い猶予法の場合は、「家賃」という明確な使途と上限がありますが、それが無い分、難しくなります。また、金利の設定をどこにするのか(通常、劣後ローンはリスクが高い分、金利も高くなります)、一律にするのか個別にするのかも合理的な判断が求められます。

そして、ここが重要ですが、企業側にも銀行側にもモラルハザードとなる可能性がありますので、そこの歯止め策はしっかり考える必要があるでしょう。

この二つの可能性からであれば、政府系金融機関と民間銀行のタイアップで劣後ローンを組んで頂くのがベターだと思います。コロナ禍の最中では、優先株の公平なバリュエーションが難しいからです。
劣後ローンの中でいうと永久劣後ローンの方がより良いですが、それが難しくても、30年〜50年の長期で設定してもらえれば、経営的に助かるところは非常に多くなるでしょう。

いずれにせよ、財政投融資の拡充が必要になる政策です。政府与党には腹を決めて頂き、早急に実現をしてもらいたいです。

外食産業では、総層雇用者数は460万人。4店舗以上を経営するような中堅企業以上が生んでいる雇用者数はその内400万人と言われています。コロナ禍における企業支援の最大の目的が雇用を守ると言うことであれば、中堅企業の支援をしっかりと打ち出すことが必要不可欠なのです。


編集部より:この記事は、タリーズコーヒージャパン創業者、元参議院議員の松田公太氏のオフィシャルブログ 2020年5月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は松田公太オフィシャルブログをご覧ください。