延期されていた中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)が22日から始まります。その前哨戦である常務委員会は4月26日から29日の日程で開催されており、全人代に向けた方針は既に決定しているものと思われます。
その間隙を突くかのようにアメリカは中国批判を強化、中国側も対アメリカだけではなくあらゆる方面に強硬な姿勢を取り始めています。5月8日には尖閣諸島のそばの領海に中国公船が侵入、日本の漁船が追いかけられるということもありました。
また12日には中国がオーストラリアからの特定食肉処理場からの輸入を禁止すると発表しています。禁止の理由については報道を見る限り些細な実務的案件で長く存在していた事象なのに今更それを理由に強硬姿勢を見せたことからオーストラリア政府のコロナ中国起源説主張への反発ではないかと憶測する向きもあります。
他にも台湾外交、南シナ海関係など中国の強気の姿勢が見えるものが多くなってきています。
一般的な解釈としては全人代に向けて中国共産党の団結力を再確認し、世界にその強さをアピールするものではないかと思われます。特にコロナからの立ち直りが一番早かった、経済的にも回復が進んでおり、中国は世界のコロナ禍への見舞い、ないし回復への援助を申し立て「世界で最も素晴らしい国家」であることを知らしめようとしているのだろうとみています。
逆に言えばそれだけ中国は世界から厳しい目で見られており、焦っているともいえるのでしょう。
まずは中国国内経済の立て直しが喫緊の課題となりますが、今聞こえてきているのは工場などの稼働は8割以上戻っているものの消費が追い付いていないようであります。いわゆるデフレの足音であります。5月8日当ブログ「コロナ後に果たしてインフレーションがやってくるのか」で記したように先進国では目先のブレはあるが長期的には緩やかなものになると考えています。しかし中国はデフレの可能性は大いにあると考えています。
1930年代大不況が長引いた原因の一つに生産性の向上がありました。20年代の好景気に自動車産業を中心に工業化の波が押し寄せたものの大不況になり、高い失業率が長続きました。それは企業の効率が高まり以前より人が必要なくなったからであります。農業についても機械化が進み生産効率が上がり過ぎ、景気回復と総需要のバランスが取れなくなったという研究もあります。
中国はその点からすると30年代大不況の背景に似た経済構造になっており、デフレリスクは正しい見方だと考えます。そのため、彼らは需要を他国に求め、輸出先を必死に探すはずですが大需要国アメリカを含め、世界の包囲網が厳しく、中々打破できないというジレンマに追い込まれているというのが私の見方であります。
次に習近平国家主席の権威がどう維持されるか、ここも難しいかじ取りが求められると思います。以前、ご紹介したように中国は2010年比で20年末までにGDPを倍増させる必要があり、そのためには今年のGDPが5.6%ないと達成できません。21年に中国共産党創立100周年を祝うためには鉛筆を舐めてでも絶対に達成が必要なはずで、現政権はなりふり構わぬ対策を取るとみています。
その中でトランプ大統領の「苛め対策」は表面的には紳士面、裏で大統領選挙対策などあらゆる強硬策をとるとみています。そうなると日本はどうなるか、でありますが、外交のシーソーを考えると日本には基本的にはスィートハートになるとみています。軽いけん制はあるとしてもバトルにはならないし、中国は日本を「低リスクカントリー」と思っている節はあります。
最悪のシナリオは米ソ冷戦時代を彷彿とさせる米中対峙時代であります。が、個人的には「そこまでやって中国共産党の体面を維持するのか」という疑問はあります。当面は対外的には負けん気を出し続けると思いますが、中国国内経済の行方が重しになり、しばしもがくとみています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年5月21日の記事より転載させていただきました。