緊急事態宣言解除後の6月定時株主総会は(やはり)完全延期すべきである

5月22日、経産省は「株主の皆様へのお願い -定時株主総会における感染拡大防止策について-」として、6月に予定されている上場会社の株主総会に参加される予定の株主の皆様へ向けて「呼びかけ」を行っています。とくに株主総会の会場への来場については

企業では、株主総会の開催に当たって様々な感染拡大防止策を講じていますが、多数の株主が会場へ来場した場合、結果として3つの密(密閉・密集・密接)が生じてしまう懸念があります。このため、御自身を含む来場株主の健康への影響等を十分考慮いただき、原則会場への来場はお控えいただくようお願いいたします。

として、出席自粛を呼び掛けています。株主の健康への影響を考えた場合、経産省がこのような呼び掛けをされるのは適切と考えます。しかし、株主に出席自粛を呼びかけるほど6月に総会を開催することが危険なのであれば、そもそも会社側には延期を呼び掛けるのが当然ではないでしょうか。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

5月25日には緊急事態宣言が首都圏でも解除される予定ですが、全面解除後の政府の「基本的対処方針」原案によれば、(事業者に対しては)職場への出勤について、在宅勤務や時差出勤など、人との接触を減らす取り組みを続けるよう、今後も求めるそうです(NHKニュースはこちらです)。もし6月総会をそのまま実施するとなれば、これから関係社員や機関投資家、印刷会社、証券市場の関係者、さらには有報監査に向けた会計監査人の勤務状況は繁忙を極めるわけです。もし、緊急事態宣言後の基本的対処方針を遵守して、総会関係者の健康への影響は考慮するのであれば、6月総会は完全に延期すべきでしょう。

また、延期したとしても、いつまでコロナ禍が続くかわからない、といった意見も出ていましたが、東京都が5月22日に公表した「新型コロナウイルス感染症を乗り越えるためのロードマップ」によれば、段階的ではありますが、100名から1000名のイベント開催も(モニタリング指標に従って)段階的に容認される見込みが示されています。もちろん「第二波」が生じないこと、事業者や株主が基本的な感染防止対策を怠らないことが前提ではありますが、総会を延期することによって、株主および総会関係者いずれの健康にも配慮した株主総会を開催する可能性が高まります。もはや完全延期のための条件はほぼ出揃ったものと考えます。このような状況であるにもかかわらず、なにゆえ「出席自粛」などといったイレギュラーな形をとってでも6月に総会を開催しなければならないのか、本当に理解が困難です。

「イレギュラーな状況での6月総会」という意味では、コロナ禍という緊迫した事態において、簡素化した総会を6月に開催することも、また7月以降に総会を延期することも同じです。ただ、「意味」の内容は大きく異なります。株主に示した配当の基本方針を守るために「つつがなく総会を終わらせる」こと、株主には議決権の事前行使を保障することが重要と捉えるのか、総会を取り巻くステイクホルダーの健康を重視し、また会計監査の役割を重視するために、短期的利益を喪失させることは申し訳ないれども、長期的利益を重視して経営したいというメッセージを示すことを重要と捉えるのか、という違いがあります。

5月24日のNHKスペシャルに、700兆円の運用を誇るブラックロックの日本法人代表の方が出演されていましたが「我々はコロナ禍でも変化できる企業、変化に強い企業を見極めたい」と述べておられました。コロナ・ショックにおいてビジネスモデルをどう変えていくのか、提供する商品やサービスに、「どのように役に立つのか」だけでなく「どんな意味を持たせるのか」という点へのメッセージにこそ注目しています。私は、株主総会ひとつとっても、その株主総会の運用にどのようなメッセージがあるのか、株主を含めたステイクホルダーに示す機会と捉えるべきではないか、と考えます。

かつての「上場会社の株主総会」といえば、総務担当者や法務担当者が主導して「つつがなく終わらせる」ことがなにより大切だったわけですが、私はもはや時代が変わった、株主総会は広報担当者や社外の広報コミュニケーション事業者と総務・法務部門との協働作業が必要になってきたのではないか、と考えております。とりわけ提訴リスクが極めて低い日本の上場会社の場合には、(バーチャル株主総会の実施も含めて)株主総会の在り方も、おおいに議論すべき時期が到来しているのではないでしょうか。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年5月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。