基本再生産数って何?

池田 信夫

新型コロナの緊急事態宣言は解除されました。日本の被害は圧倒的に少なくてよかったのですが、これを「日本人スゲー」ですませてはいけません。日本人がまじめてきれい好きなことはまちがいありませんが、それだけでヨーロッパとの死亡率の100倍の差は説明できないからです。

それを考える上で大事なのは、基本再生産数という数字です。これはとてもややこしくて、お医者さんでも理解してない人が多いのですが、簡単にいうと日本経済新聞にも書いてあるように「あるウイルスを1人の感染者が何人に感染させるかを示す値」です。

再生産数(日本経済新聞より)

この図のようにコロナを1人が2人にうつすと、その2人が2×2=4人にうつし、その人が2×2×2=8人にうつす…というようにネズミ算でウイルスが増えていきます。これを指数関数といって2^3などと書き「2の3乗」と読みますが、

2^10=1024
2^20=1048576
2^30=1073741824

とすごい勢いでふえていきます。これに対して再生産数が1より小さいと

0.5^2=0.25
0.5^3=0.125
0.5^4=0.0625

というようにどんどん0に近づいていきます。だから再生産数をいくつと想定するかで、計算結果は大きくちがうわけです。

なぜ西浦さんは計算を500倍もまちがえたのか

西浦博さんは再生産数を2.5と考えた理由について

専門家会議が発表した東京都の再生産数の推定値である1.7でシミュレーションするべきではないかという主張も、正当なことだと思います。しかし、私自身は日本でも再生産数が1.7から上がっていく可能性は十分にあると考えています。

と気楽にいってますが、

2.5^10=9536
1.7^10=201

ですから、本当は1.7なのに2.5で考えると、10乗しただけで47倍も多くなります。西浦さんの「何もしないと42万人死ぬ」という計算は(たぶん本当は1に近い)基本再生産数を2.5と考えたので、800人の死者をその500倍以上にまちがえたわけです。

再生産数は感染がどれぐらいで終わるかの計算でも大事です。たとえばみなさんのクラスに32人いて再生産数が2だとすると、2^4=16人が感染症にかかると、半分の人が免疫をもちます。この人たちはもう感染しないので「人間の壁」になり、それ以上、感染がふえないのです。

このように感染が収束する状態を集団免疫といいます。その計算はちょっとむずかしいのですが、再生産数が2だったら1/2とおぼえてください。つまり再生産数は感染がどこまで広がるかを決める数字として大事なのです。

コロナについてはヨーロッパで基本再生産数が2.5といわれたので、日本でも同じだろうと西浦さんは考えたようです。それだと人口の60%つまり7500万人がコロナにかかるはずですが、日本の感染は約1万6000人で終わりました。

こういうけたちがいのまちがいは指数関数ではよくあることですが、これは大きくまちがえすぎですね。ちゃんと答え合わせをして、なぜまちがったのか反省することが大事です。

これ以上はよい子のみなさんにはむずかしいので、わからない人はアゴラサロンでお答えします。