日産だけじゃない。コロナだけじゃない。自動車会社の構造的問題

岡本 裕明

トヨタ、ホンダの決算発表から遅れること約2週間、日産がようやく発表した20年3月度決算は6700億円余りの赤字となりました。非常に荒っぽい数字ですが、わかりやすくみると売り上げが10兆円、営業利益がゼロ、最終がマイナス6000億円ですが、昨年の最終利益が3000億円でしたからざっくり9000億円の利益下押しということになります。ただ、そこには構造改革費が6000億円入っています。正直、第一報を聞いたときはずいぶんよい決算数字だなと感じました。赤字1兆円ぐらいあってもおかしくなかったと思います。

横浜の日産本社(Luca Mascaro/flickr)

横浜の日産本社(Luca Mascaro/flickr)

一方、中期計画で24年3月までの販売台数の目標は現状の493万台から537万台の15%増と伸びを抑えた水準で設定されています。また、工場閉鎖などの固定費削減を3000億円予定していることで仮に構造改革が見込み通りうまくいけば単純計算で21年3月期は最終損益は3000億円出ることになります。(実際はこんなに単純ではありませんが、話を分かりやすくするために大きく丸めています。)なお、日産は21年3月の業績見込みは発表していません。

さて、トヨタが21年3月には販売台数が22%減って700万台になるとみているのに対して日産は21年3月にそこまでの落ち込みを見込んでいるかわかりません。コロナでの販売減のみならず、今後、新車販売はボディブローのように効いてくるとみています。日産は新車発売がしばし途絶えており、北米で販売されているクルマも陳腐化しているのが現状です。会社側の発表では1年半で12車種出すという計画がある一方、儲からない車種を削り、「車種も中型車と電気自動車(EV)、スポーツ車に集中し、2割削減する計画だ」(日経)とあります。ここはもう少し丁寧な説明が必要だと思います。

個人的には決算対策で構造改革を通じて現在の販売台数程度でも利益が出るように雑巾を絞った形にしていますが、販売台数の下振れリスクとまだ計上していない構造問題が出てくる気がします。つまり、膿は出し切っていないかもしれません。

私が気になるのは日産に限らず、クルマに対する人々の期待感の変化であります。コロナがもたらしたものは3つあるとみています。一つは消費の一時的減退。次に膨れ上がる失業者が新車を購入できないリスク、3つめはクルマのコモデティ化の再認識であります。

コロナ後にどうなるか、について人との接触を避けたい向きが強まり、クルマの需要は増えるというトレンド分析家の予想があります。それは否定しないのですが、足としてのクルマの需要であり、ファンシーなもの、最新のものを求める動きとは別物とみています。

次に失業していればどれだけ金利が安くてもローンはつかないです。これは自動車販売には猛烈な逆風であるとみています。

クルマのコモデティ化は昔から言われていたことですが、出る出るといわれてなかなかでない自動運転など業界から消費者への刺激あるメッセージが途絶えているため、そもそもの消費意欲が落ちてしまっている公算は大いにあります。

確かに新車はインパネが派手で電装品が多用され、見栄えはいいのですが、それらを全部使うのか、といえば宝の持ち腐れ的なものは多いのです。北米でGPS(ナビ)は普段は使わないし、スマホの音声ガイドでも代用できるし、音楽はスマホとブルートゥースでつなげるのでどんな安いクルマでもOKです。(あえて言うならスピーカーが違うだけ。)

今のクルマは丈夫ですからメンテナンスさえしておけば20万キロ走ったクルマでも大丈夫となれば買い替えは家具並の10年以上で壊れるまで、という感覚になってくると思います。

ではどうするのか、ですが、今更ながら、自動車会社の数を大幅削減するしかないとみています。日本だけでも一般向け自動車会社は8社(含むダイハツ)もあります。私が大学生だった80年代に日本の自動車会社はいずれ3社になると習ったのにそうなりませんでした。これは日本の自動車会社の経営的足腰が強かったという美談というより、日本が経営統合を体質的に嫌っていて、どの会社も生き残りに必死だったということかと思います。事実上は3社と専業に近い4社という住み分けで販売構造も海外に頼る部分が大きくなっています。しかし、「生き残り」と「覇者」は全然違います。

私が思うのは経営統合したうえでVW方式のブランドを傘下に抱えるやり方かと思いますが、VWはある意味似たような高級路線のブランドをたくさん抱えています。フランスの高級ブランドを扱うLVMHと同じです。

ですが、私の経営再編のイメージはそうではなくて車種や戦略エリアごとにブランドを作り、住み分けを図るという発想です。とすればブランド力がモノを言う北米、環境重視の欧州、見栄えの中国、価格のアジア…といったことを一社が多数のクルマを配して重複させるより傘下の特化した会社に任せる方がマクロ的にはずっと効率的であると思います。

例えば日産はダットサンブランドをやめる方向にあると理解していますが、三菱自動車に強みがある分野なのでそこで代替してもらうといった方策が経営戦略上、できるのだろうというのが私のポイントです。

自動車会社の構造改革はたやすくはないのですが、経済産業省が日本の将来の産業構造を考えた上で官民で大きく動かねばならないと考えています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年5月29日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。