小池都知事の「変節」は健全な民主主義の象徴

民主主義国家における選挙の意味は、有権者が政治権力者を政治の場から退場させられること、と喝破したのは、元大阪市長・元大阪府知事の橋下徹氏です。選挙があるから、政治家が権力の濫用によって暴走することを抑止できるのです。

東京都は、新型コロナウイルスの対応で休業要請していた商業施設や映画館などの営業を6月1日から認めることを決めたそうです。ロードマップで「ステップ2」へと移行することになります。

都知事公式Facebookより

しかし、東京都の緩和基準は
1.1日の新規感染者数が直近7日間平均で20人未満
2.感染経路不明者の割合が50%未満
3.週単位の感染者が減少傾向

となっているにも関わらず、5月29日には感染者が20人を超え、経路不明者も54.9%。感染者の増加傾向が再び始まっているように見えます。

今まで、慎重すぎるくらいの自粛規制を行ってきたのに、ここに来てなぜロードマップ基準を逸脱した経済活動の再開を進めようとするのでしょうか。

それは、東京都知事選挙があり、そこにホリエモンこと堀江貴文氏が立候補することが予想されているからではないでしょうか。

堀江氏は、国と都が行ってきた経済活動の自粛を過剰だったとしてその弊害を指摘し、小池都知事の新型コロナ対策にも批判を行うと予想されます。

小池都知事は有力な対抗馬に危機感を感じ、自らの民主主義的退場を防止するために「変節」した。自らの信念と言うより、民意を踏まえた選挙対策と考えた方が自然です。

私はこの小池都知事の「変節」は悪いことではなく、ポジティブに捉えています。なぜならこの変節ぶりこそ、健全な民主主義を象徴しているからです。

もし選挙がなければ、都民の声に耳を傾けることなく、独善的な考えで政策を進めることに、誰も反対することができなくなります。

民主主義が常にベストの選択をするとは限りません。新型コロナウイルスにどう対応すれば良かったのかは、結果論でしかわかりません。自粛の継続か経済活動の優先かは正解のわからない中での意思決定が必要です。しかし、少なくとも言えることは、独裁者が暴走する社会よりは、民主主義の方がベターだということです。

いずれにしても、今回の「変節」によって、小池都知事の再選の可能性は更に高まったと思います。


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2020年5月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。