日本は失業者が増えるのか?

岡本 裕明

コロナ後の経済について様々な分析記事、憶測記事がありますが、今日はその中で失業率について着目してみたいと思います。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

総務省統計局の今年1月から4月の完全失業率はそれぞれ2.4%、2.4%、2.5%、2.6%となっています。一部予想では年末にかけて3.9%まで増大するとされています。人数でいうと失業者100万人増でこれはリーマンショックの時と同じ規模とみているようです。また、元日銀の政策委員の一人、木内登英氏は265~318万人が失業するとみています。

果たしてそんなに悪化するのでしょうか?個人的にはしないし、ならないとみています。それは見るファクターが違うような気がするからです。

日本の労働力にはある程度の柔軟性があります。柔軟性とは仕事は生活するための手段という意味合いが北米より強いという点です。北米の場合にはキャリア第一主義で自分の希望職と希望条件に見合うまではあきらめないし自分も安売りしない傾向があります。しかし、日本の労働環境は強力なマニュアルとサポートシステム(一人で仕事をしない)もあるため、技術職や専門職を除けば北米と比較すれば適応性が高いものです。(逆説的ですがこれが給与が上がらない仕組みの一つでもあります。)そして食べるためなら自分の仕事のランクを落とすこともあります。

仮に100万人の労働力が余剰となったとしてもこれを理論的には簡単に埋める方法があります。それは外国人労働者が担っていたポジションを取り返せばよいだけなのです。コロナ前で外国人労働者は165万人ぐらいいました。当時、ひっ迫する労働市場に救世主として現れたわけです。そこが労働市場のクッションなのです。

カナダでは外国人向け短期労働ビザは国内労働市場の具合に応じて発給されます。景気がよく労働市場がタイトである場合、短期労働ビザは出やすくなりますし、業種やエリアによっても厳しく調整されています。ビザは雇用主とヒモ付きですのでその雇用者の下でしか働けない仕組みになっています。日本のようにフリーダムではないのです。その代わり、この「ヒモ」は伝家の宝刀で労働市場の調整弁として素晴らしく機能するのです。

基本的な発想として外国人労働者は必要な時にお願いするというスタンスはどこの国でも似たようなものであり、コロナで失業者が増えることが予想される中で外国人労働者向けのビザの発給弁を閉めないとは思えないし、仮に閉めないのであればそれは政策の片手落ちというものであります。

勿論、それまで比較的良いポジションの仕事をしていた人がコンビニやファーストフードの店で働くのか、と思われますが、あくまでも一時的対処でその間に自分に見合った仕事を探すぐらいのフレキシビリティはあるとみています。

ただ、世の中、そんな都合がよい話ばかりでもありません。上記の話は表面的な数字上のことで、私が懸念するのは仕事の質の変化が起きることによる労働市場からの脱落であります。

例えば在宅勤務がごく一般的になるとしましょう。在宅勤務ほど自分に戒めをしないとできない仕事はありません。なぜなら周りに会社の目が少なくなるので労働生産性が人によりばらつく可能性があるとみています。

一方、会社側には社員個人の生産性がしっかり見えますので以前に比べて個人の成績が明白になり、出来の悪い社員には厳しい待遇が待つことになります。また、コロナでも日本の企業は従業員を抱きかかえていますが、このような変革期を経ると会社側も今まで以上に頑張らねばならないので業務管理がより厳しくなります。当然ながら、ついていけない脱落者を生むことになります。北米ではレイオフしてもその全員が元の職場に戻らないのと同様、日本でも労働市場全体の枠(需要側)は実質的に引き締まってしまうのです。

これは過去の大不況などの後の雇用状況を見てもおおむね雇用の調整弁は閉まりやすくなるのでいわゆる「振り落とし」が生じる可能性はあります。また好景気の際(つまりコロナ前まで)に雇用しすぎた会社は経済環境の激変によりより保守的な雇用活動になりやすくなります。そのため、労働の2:6:2の法則の通り、できない人材が2割いる中で効率化という掛け声のものと、従業員のシャッフルがされやすくなる点は否めないでしょう。(それゆえにこのような時にはケインズ型の公共事業を増やすことで失業者を吸収させる政策が有効になるとみています。30年代大不況の際のネバダ州のフーバーダムが好例でしょう。)

結論的には失業率では専門家が予想するほど悪化しないとみていますが、職が変わり、期待収入が下がり、労働者による消費が不活発になったりプライスセンシティブになる公算はあります。ただ、物価については全般的には高齢者が消費を引っ張る形となっています。コロナで高齢者のアセットが痛んだわけではないので消費全般が冷え冷えになることもないとみています。

楽観的と言われるかもしれませんが、経済活動は予想に対してそのようにならないように努力し、回復する自助修復機能が備わっています。それゆえ専門家の理論で構築した予想はなかなか当たらないものなのです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年6月1日の記事より転載させていただきました。