「コロナで42万人死ぬ」とか「8割削減が必要だ」と風説を流布し、日本社会を恐怖に陥れた西浦博氏が「あれはトイモデルだった」と言って批判を浴びています。これはアゴラでも初期から指摘したことです(2020年6月3日の記事の再掲)。
緊急事態宣言「8割接触削減」の計算過程、改めてご説明します- 西浦博・京都大学大学院教授に聞くhttps://t.co/UUUM44GAuq
— m3.com編集部 (@m3com_editors) August 25, 2025
よく8割接触削減の「根拠」と言及されるので念のためにお答えしておきたいのですが、この政策シナリオは厳密には根拠と言えるものではないと思います(「背景理論」と表現できる程度ではないでしょうか)。
その背景理論は、基本再生産数(R0)=2.5等々の一定の仮定の下で、対策によって流行動態がどう変化するのかを「トイモデル(簡易的な計算モデル)」で計算した、というだけのものです。
これは当時、私が指摘したことだ。彼が2020年3月の専門家会議に提出した論文では、Ro=2.5で感染が拡大するとオーバーシュート(意味不明)が起こり、60日で人口の79.9%、つまり約1億人が感染すると予言している。その0.4%が死亡すると、42万人になる計算である。

2020年3月の専門家会議資料より
図1
こういうトイモデルを学会のワークショップで出すなら問題ではないが、彼はこれを政府の専門家会議に出し、それに「8割削減」を加えたモデルを厚労省で記者会見して発表し、「何もしなかったら42万人死ぬ」と予言したのだ。

図2
日本の接触削減はヨーロッパよりはるかに少なかった
ところが彼の予想した期間に、日本のコロナ死者は8割減どころか1/460の約900人だった。その時期に図2のような劇的な接触削減があったのか。
何もしないRoが2.5で、それを減らす要因が(自粛やロックダウンなどの)流行対策だけだとすると、実効再生産数Rtは次のようになる。
Rt=Ro(1-p)
ここでpは接触削減を示すパラメータで、pが大きいほどRtは小さくなり、Ro=2.5とすると、p>0.6のときRt<1になって流行は収束する。
日本のコロナ感染率は欧米の1/50~1/100なので、pはヨーロッパよりはるかに大きかったことになる。日本の自粛はロックダウンのような法的拘束力がなかったが、その効果は強かったのだろうか。
日本の「接触削減」は最大50%
次の図はアップルの移動傾向レポートから5ヶ国のデータを選び、1月13日の交通量を100として、各国の交通機関による移動率の変化をみたものだ。

各国の交通機関の移動量の変化(Apple Mobility Report)
図3
最初にロックダウンしたイタリアでは、3月後半には交通量が90%近く減り、イギリスでも80%以上減ったが、日本は最大でもピークの50%減だった。つまり日本の接触削減はヨーロッパのロックダウンよりはるかに少なかったのだ。
どんな指標でみても日本の接触削減はヨーロッパより少なかったが、その成果は圧倒的に大きい。その原因は論理的に考えると、日本のRoはヨーロッパよりはるかに小さいと考えるしかない。
上の式でRo<1だったら、接触削減なしでp=0でもRt<1になる。これは東京の抗体陽性率が0.6%というデータと整合的であり、彼が計算した日本のRtも、次の図のようにそれを示唆している。

新規感染者数とRt(専門家会議の資料)
死者が欧米の1/100になった原因はRo<1
では日本のRtがそれほど低くなる原因は何だろうか。その後の研究でもわかったことは、日本人のコロナに対する感受性がヨーロッパ人より小さいということだ。これは個体差も大きく、ヨーロッパ人でも感受性ゼロの人が多い。
感受性を決めるファクターXとしてはいろいろな候補が考えられるが、日本人の感受性がヨーロッパ人より系統的に低いとすれば、その効果は指数関数的にきくので、死者がヨーロッパの1/100になることは十分考えられる。
Ro>1だと感染は指数関数で増えるが、Ro<1だと指数関数で減るからだ。最近では西浦氏も「日本ではRo=0.5程度だった」と認めているが、これは欧米よりはるかに低い。
最近の遺伝学でもわかっているように、ホモ・サピエンスの中でも人種によって遺伝子の発現形態はかなり違う。ウイルスに対する感受性も、人種によって違うのは当然だ。人類すべてにRo=2.5を当てはめた西浦氏のトイモデルは、最初から間違っていたのだ。






