新型コロナウイルス対応で、オンライン診療が例外的に認められたことは先日の「法律ゴテゴテ 教訓にして前に進めるのか?(2020.04.24)」の記事でお伝えしました。コロナの流行拡大以前は、「基本的に初診は対面にて行う」「対面で月1回以上を6ヶ月以上受診する」「医療機関から30分以内の距離に居る人」の3条件が揃って初めてオンライン診療を受けることができましたが、今は特例で初診から受診が可能になっています。
これまであまり広がらなかったオンライン診療ですが、コロナが感染拡大して以来、「他の病気で病院に行きたくない」患者側と、医師側も「あまり来て欲しくない」という思いから、5月上旬には全国で1万3000以上の医療機関がオンライン診療を始めました。この数字は1年半前の10倍にもなっています。しかし、オンライン診療が初診から受診できる特例はコロナ渦における時限的・特例的措置ということですから、日本医師会も厚生労働省も終息後は“元に戻す”というのが基本スタンスです。とはいえ、オンライン診療の有益性を知った、あるいは、「そんなに大変じゃない」「面倒じゃない」という利便性を知った、こうした患者や医師はたくさんいたわけですから“元に戻す”といっても、以前の状態に戻るというのは現実には無理でしょう。
さらに、オンライン診療どころか技術的には遠隔医療、例えば外科手術の遠隔手術が可能になってきています。すでに外科手術の現場には、手術支援ロボットが導入されており、医師がモニターを見ながらロボットアームを操作して執刀しています。外科手術では髪の毛1本分ほどの毛細血管を縫い合わせるようなこともしなければいけませんが、それには8Kという映像技術も活用されています。私たちがテレビを買いに行けばハイビジョンや4Kなどと、とにかく画像の繊細さを競っていますけれども、現行の顕微鏡(ハイビジョン)に比べて8K顕微鏡は、16倍の解像度になっています。高精細な映像が得られるため、患部を拡大する際はカメラを動かすことなく、全体像から一部を切り出して拡大することが可能となっています。
そして5G通信です。5Gの通信網が全国に整備されれば本当の意味での遠隔手術が可能になります。現在、私たちが使っているスマホの多くは4G通信ですが、4Gの100倍も通信速度が速くなる5G通信がもつ同時性が、1秒の遅れてでも命に関わる外科手術にとっては重要になります。
通常は3~4人の医師が揃わなければできなかった手術がこうした技術を組み合わせることによって、地方の病院の手術室に1人の外科医がいて、遠隔地にベテランの外科医がいれば、クリアな画面を見ながらロボットアームで手術をサポートすることができます。国立がん研究センターでは、2026年から遠隔地手術を実用化するということを目指して研究を進めています。
国民皆保険のおかげで、私達日本国民は医療にアクセスはしやすいのですがも、医師の数はすごく少ないんです。自由主義経済の発展のために協力を行う機構として欧米を中心に37ヵ国が加盟する経済協力開発機構(OECD:Organisation for Economic Co-operation and Development)の中で、日本の医師の数はどのぐらいかというとこんな感じです。
しかも単なる医師不足ではなく、医師の偏在というのもあります。日本全国を見渡して医師の数が一番多いのは東京です。特に外科医の医師不足と偏在は深刻です。単に地方が嫌で若い医師が行きたくないということではなく、ベテラン医師と一緒に手術をする経験が積めないからですね。
日本の現状そして、これからアフターコロナを考えたときに、政府はこうした技術や仕組みの構築をどんどん進めるべきだと私は思います。それを前提で言いますが、はっきり言って10年後に遠隔地手術は日本で当たり前になっているでしょう。
編集部より:この記事は、前横浜市長、元衆議院議員の中田宏氏の公式ブログ 2020年6月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。