アメリカで起きているデモの最大の被害者は「大人しい黒人」

黒坂 岳央

黒坂岳央(くろさか たけを)です。
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米国でデモが起きている。悲しいことだ。特にこのデモが起きたミネアポリスは、筆者が米国に住んでいた時期に仲のいい友人の実家がある場所であり、彼らと楽しく過ごした思い出がある。牧歌的で平和なミネアポリスが火の海になっている映像は、辛いと感じる。

Hungryogrephotos/flickr

このデモの反応を見たくてSNSを巡回していると、「やっぱり黒人は怖いな」「アメリカは暴力に訴える人が多くて危険」という趣旨の意見を複数見た。多くはないけど。

黒人?アフリカン・アメリカン?アフロ・アメリカン?ブラック?どう呼ぶのが適切でマナー違反にならないかはハッキリしないし、このへんは人によって感じ方も違うだろう。今回は彼らを「アフリカ系アメリカ人」と表現することにする。記事タイトルの「黒人」はパッと見で、一番意味が短く伝わるワードとして採用した。特に筆者からの差別的意図は一切ないのでご容赦願いたい。

さて、このデモを見て感じたのは、「これって最大の被害者はデモに参加していない、大人しいアフリカ系アメリカ人じゃないか」と感じた。思うところを述べていく。

彼らの大半は大人しくしている

日本人の多くのデモは大人しいものだ。歩きながら抗議の声を上げ、警察官と衝突したり、ものを破壊することもしない。だが、この件に限らず、海外でのデモの多くは日本人にとって衝撃的だ。店を襲撃する、警察官と衝突する、物を破壊する、怒り心頭で暴れまわる。世紀末感が漂う。

米国のデモもすさまじいパワーを感じた。店は破壊され、警察署は放火された。大勢が暴徒化する映像だけを見ると、アフリカ系アメリカ人の全員が怒りをぶちまけているような印象を持ってしまいがちだ。

しかし、映像だけで判断しようとすると真実を見誤る可能性がある。米国におけるアフリカ系アメリカ人の割合は13%程度だ。米国人口は3億2000万なので、ざっくり4,200万人前後という計算になる。デモ参加人数を多く見積もって5万人が参加したとしても、全体のわずか0.1%にすぎない。つまり、99.9%のアフリカ系アメリカ人はこのデモに参加せず、大人しくしているのだ。

2005年に中国で起きたデモにおいても、同じようなことを思った記憶がある。中国で起きた反日デモとしては極めて大きい規模であったが、中国は人口が多い国だ。デモに参加していない人がほとんどであり、多くの人は「デモより日常が大事」だ。積極的にデモに参加するより、お金を稼いで生きていく現実が優先される。

noisy minorityとsilent majority

英語にはnoisy minorityとsilent majorityという言葉がある。「うるさく騒ぎたてる人は少数であり、大多数は静かにしている」という意味だ。デモを見るとついつい、暴れている属性を全体論的で語りがちだ。だが、現実にはnoisy minorityとsilent majorityなのである。デモを冷静に観察する際には持っておくべき概念といえる。

そしてこれはあらゆる場面で適応できる思考だろう。物事を大きく取り上げて騒ぐ人は少数派だ。そうした人は自分の人生はさておき、自分が問題視する事項に心血を注いで取り組む。バカにするつもりはないし、批判・評価は文化や作品を高めることにつながるので否定するつもりはない。手放しの称賛だけでは、人は成長できないので建設的意見は大いに取り入れるべきだろう。

だが、多くの人は自分の人生に直接影響のない物事には冷静なのが普通だ。他人の言動に怒りをぶちまけることはせず、それよりも日々の自分の生活に忙しい。瞬間的に感情という池に小石が投じられて波紋を呼んでも、数時間後にはすっかり忘れている、そんなものなのだ。

このデモの参加者もnoisy minorityといえる。アフリカ系アメリカ人の人口母数が多いので、全体のわずかな割合が暴徒化しても、ものすごく多く見えてしまう。このデモが落ち着いたら、アフリカ系アメリカ人に対して冷たい視線を向ける人が一部出てくると思う。そうなると、ほとんど彼らは風評被害を受けたことになるのではないか。それは非常に気の毒なことだと感じてしまう、そんなデモだった。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。