「言葉」から見る政治家の新型コロナウイルス対応 --- 蒔田 純

寄稿

小池氏、吉村氏、鈴木氏(ツイッターより)

政治家の「言葉」の分析

コロナ禍の下、政治家、特に各都道府県知事の発信力や説明力が改めてクローズアップされている。「言葉」は政治家の信念やそれに基づく具体的施策を表現するものであり、ある状況下において「何を言ったのか」を見ることで、その政治家の人物像や思い、資質・能力、政策形成や行政運営の方針・手法等が相当程度明らかになると考えられる。

特に現在、政治家たちは、新型コロナウイルスという未知の課題への対策を迫られている。既存の対処法が存在しないこのような場面においては、まさに政治家としての総合的な対応力が試されるのであり、それ故に、政治家そのものを映す鏡である「言葉」に注目する意義も高まっていると言えよう。

本稿では、このような問題意識の下、東京都の小池知事、大阪府の吉村知事、北海道の鈴木知事、という特に注目を集める三名の知事に焦点を当て、彼/彼女らが記者会見の場で、どのような言葉を用いて何を語ったのかを分析することで、新型コロナウイルスに対する各知事の対応について、その特徴や相違を明らかにしたい。

分析には、「テキストマイニング」と呼ばれる言語データの解析手法を用いる。対象とするのは新型コロナウイルスの感染拡大が始まった本年2月から5月までに各知事が行った全ての記者会見(小池知事の場合は記者会見+インターネットでの配信動画)の言語データであり、これを統計解析ソフト「R」、及び、テキストマイニングソフト「KH Coder」を用いて分析する。なお、各知事の言葉の比較に重点を置くため、「東京」「大阪」「北海道」等、それぞれの知事が使う頻度が高くなって当然の言葉はあえて分析から除外してあることに留意されたい。

頻出語と各知事会見の特徴

まずは単純に各知事がどのような言葉を多く使っているか見てみたい。表1は各知事の記者会見における頻出語(名詞のみ)上位30を示したものである。ここではやはり「感染」「コロナ」「ウイルス」「医療」等の語が上位を占めており、改めて、各知事の記者会見は大半が新型コロナウイルス関連となっていることが分かる。

しかし、その中においても各知事の特色は垣間見られ、例えば、小池知事には「防止」「外出」「テレワーク」、吉村知事には「予算」「経済」、鈴木知事には「拡大」「地域」等、それぞれ他の知事には見られない語が確認できる。

各知事の特色をもう少し明確にするため、対応分析という手法を用いてみる。これは、行と列からなるデータにおいて項目間の関係性を視覚的に理解する方法であり、各知事の言葉の特徴を把握することに有効である。

図1がその結果であり、赤字の「file:koike」「file:yoshimura」「file:suzuki」が、この二次元空間における各知事の位置を示している。各語は水色の丸で示されており、出現回数が多いほど丸は大きく、また、似たような出現パターンの語同士は丸の距離が近く表示されている。

図1では、原点から見て「file:koike」の方向にあるのは「協力」「ウイルス」「防止」「外出」「守る」等の語であり、小池知事の会見は全体として、感染防止の観点から外出自粛等の都民の協力を求める文脈が強調されていることが分かる。

これに対して「file:yoshimura」の方向には「予算」「クラスター」「経済」「支援」「確保」等の語がプロットされており、吉村知事の会見は感染拡大対策に加えて経済対策の側面も強調されていると理解できる。

「file:suzuki」の方向にあるのは「対応」「行動」「状況」「地域」「取り組み」等であり、これらの語から特徴を読み取るのは難しいが、一方で「file:suzuki」は原点(0, 0)との距離が非常に近い。対応分析では原点近くにはどの文書にも出現しやすい語が位置づけられるため、鈴木知事の会見は、内容的に他の知事と重なる部分が大きいものと解釈できる。特に寄与率が大きい成分1(0.0972, 61.84%)、すなわち図の横軸に注目すると、「file:suzuki」は「file:koike」と非常に距離が近く、鈴木知事の会見は小池知事のものと内容的に似通った部分が多いものと理解可能である。

以上より、各知事の会見をその特徴に従って類型化すると、小池知事は「感染対策重視型」吉村知事は「経済重視型」鈴木知事は「網羅型」と呼ぶことができよう。

各知事会見の構造

次に、各知事の記者会見をそれぞれ詳しく検討するため、多次元尺度構成法という手法を用いる。これは出現パターンが類似している語を距離的に近くプロットすることで可視化し、空間的に文書全体の構造を把握しようとするものである。小池知事・吉村知事・鈴木知事、それぞれの結果を示したのが図2~4である。各語は丸で表され、出現回数が多いほど丸は大きくなっている。また出現パターンから各語はグループ化され、グループによって色分けが為されている。

小池知事の会見を示す図2を見ると、右側には「病院」「患者」「検査」「陽性」「療養」等の語が並ぶ一方、左側には「テレワーク」「企業」「生活」「事業」「社会」「支援」等が位置している。これより、この図の横軸は、医療体制に関わる事柄、及び、企業や人々の社会活動に関わる事柄で構成された「医療体制-社会活動」軸であると判断できる。

また、図の上側には「実施」「休業」「要請」「措置」「自粛」等がある一方、下側には「動画」「情報」「お伝え」「相談」「対応」等が並ぶ。ここから、縦軸は、政策や措置の実行に関わる事柄、及び、その具体的実施に係る事務的なオペレーションに関わる事柄で構成された「政策実行-事務オペ」軸であると理解できる。

同様に吉村知事の会見を表す図3では、右側には「医療」「コロナ」「ウイルス」「病院」「病床」等がプロットされ、左側には「緊急事態宣言」「自粛」「要請」「休業」「事業」等が位置している。ここから、横軸は、医療体制に関わる事柄、及び、企業や人々の社会活動に関わる事柄で構成された「医療体制-社会活動」軸であると判断できる。

また、図の上側には「クラスター」「発生」「専門」「基準」「陽性」「検査」等があり、下側には「予算」「経済」「企業」「制度」「支援」等が位置している。これより、縦軸は、感染拡大対策に関わる事柄、及び、経済支援に関わる事柄で構成された「感染対策―経済支援」の軸であると解釈できる。

鈴木知事の会見を示す図4では、右側には「予算」「事業」「進める」「取り組む」「対応」等があり、左側には「専門」「説明」「見る」「分かる」「判断」等が並んでいる。これより、横軸は、政策の実行に関わる事柄、及び、その前段階としての情報収集・分析に関わる事柄で構成された「政策実行-情報分析」の軸であると解釈可能である。

また、上側には「自粛」「休業」「措置」「外出」「要請」「緊急」等がプロットされ、下側には「医療」「体制」「検査」「陽性」「接触」「患者」等が位置している。ここから、縦軸は、企業や人々の社会活動に関わる事柄、及び、医療体制に関わる事柄で構成された「社会活動-医療体制」軸であると理解できる。

以上より、記者会見の背景にある各知事の新型コロナ対応に関する構造が見えてくるだろう。

小池知事の会見は「医療体制-社会活動」「政策実行-事務オペ」という2軸で構成されており、感染拡大対策に重点を置きながら、それに関する都の対応を会見の場で説明するという姿勢が伺われる。

吉村知事の会見は「医療体制-社会活動」「感染対策―経済支援」の2軸で構成されており、感染対策と経済支援の双方を重視する方針が明らかになっていると言える。

鈴木知事の会見は「政策実行-情報分析」「社会活動-医療体制」の2軸で構成されており、感染拡大対策に軸足を置きつつ、それに関する北海道としての対策を会見において伝えていることが分かる。

これらは、小池知事:「感染対策重視型」、吉村知事:「経済重視型」、鈴木知事:「網羅型」という、上記の対応分析から得られた結果とも整合的であり、記者会見における「言葉」が、各知事の新型コロナ対応を明確に表していることを端的に示すものと言えよう。

「言葉」は有効なツール

「言葉」はまさに人を映す鏡であり、政治家の場合はそれが人々の生活や社会活動全体に直接影響を与える可能性を持つが故に、特にその重要性は甚大である。本稿では3人の知事を取り上げ、テキストマイニングによる記者会見の分析からそれぞれの特徴や類型が明らかになったが、それは、各知事がそれぞれ自分の「言葉」を持ち、そこに自身の政治信条や具体的方策が明確に反映されているが故であろう。

「言葉」は、見えない敵と戦う今、それへの対応を見える化し、人々に現在の安心と未来への希望を与える有効なツールである。政治家たちが「言葉」をもってこの難局を乗り切る術を示し続けてくれることを期待したい。

蒔田 純(まきた・じゅん)弘前大学教育学部 専任講師
1977年生。政策研究大学院大学博士課程修了。博士(政策研究)。衆議院議員政策担当秘書、総務大臣秘書官、新経済連盟スタッフ等を経て現職。北海道厚沢部町地方創生アドバイザー。