官僚になるためには、難関の国家公務員試験に合格する必要する必要があることは比較的知られていると思います。
でも、実は試験に受かれば官僚になれるわけではありません。
試験は、面接への切符に過ぎないのです。
いわゆるキャリア官僚になるためには、国家公務員試験(総合職)に合格した上で、民間企業への就職と同じように志望する官庁の面接を受けて内定をもらう必要があります。この採用面接を「官庁訪問」といいます。
例年は試験の合格⇒官庁訪問(採用面接)という流れです。
参考までに2019年のスケジュールは以下のとおりです。
1次試験:4月28日(日)
1次試験合格発表:5月10日(金)
2次試験(筆記):5月26日(日)
2次試験(政策課題討議・人物)5月28日(火)~6月14日(金)
最終合格発表:6月25日(火)
↓
官庁訪問(採用面接):6月25日(水)~7月9日(火)
毎年、このスケジュールは少しずつ変わりますが、昨年のスケジュールは試験の最終合格発表の翌日から官庁訪問(採用面接)が始まるというものだったので、地方の学生にとっては非常に負担の大きいものでした。
なぜなら、最終合格しているかどうか分からない段階で、東京のホテルや新幹線などの予約をしておかないといけないからです。残念ながら不合格になった場合にはホテルなどのキャンセル料が発生してしまいます。
試験と官庁訪問の日程はどうも採用側の都合が優先されている気がしてならないですが、もう少し地方の学生などにも配慮が必要ではないかと思います。
今年のスケジュールは、新型コロナウイスルの影響で、2度試験日程が延期されたり、採用面接のプロセスが非常に複雑になるなど、さらに学生にとって大変なものになりました。
事前面談会:6月23日(火)~7月3日(金)
1次試験:7月5日(日)
1次試験合格発表:7月中旬
※ この後に官庁訪問と2次試験が実施されます。
事前面談会については、人事院のHPでは、各府省が業務説明会の一環として開催するものであり採用プロセスではないとHPに記載しています。
1.「事前面談会」において、採用に向けた選考を行うことは一切ありません。
2.「事前面談会」への参加を希望する受験者は、全員どのタームからでも参加可能です。
3.「官庁訪問」において、「事前面談会」に参加することで優遇されることはありません。
一方で、各府省の採用のHPには、人事院が例年公表している官庁訪問ガイドとほとんど同じ共通の事前面談会ガイドが公表されています。
個別面談やグループ面談等を通じて各府省等と受験者間の「マッチング」を目指すものと記載されています。
この事前面談会のガイドで最も重要な情報はここです(↓)。
★事前面談会の運営上、マッチングの状況によっては、第2タームに進まず、第1タームで終了する場合があ ります。
★事前面談会に参加した府省等と良いマッチングが出来ていないと感じたときは、新たな府省等の事前面談会 への参加も検討してみて下さい。
受験生は、7月3日(金)の事前面談会最終日まで希望の府省等に参加し続けることができるようにがんばってください。
さて、今日は10年以上官庁訪問の面接官をやっていた僕の視点で、どんなことを意識したらよいか、ご参考までにお話してみたいと思います。
あくまで、僕個人が感じていたことです。組織として、こういう基準で評価をしていたとかいうわけではありませんので、そういう前提で読んで下さいね。
1. 政策について
政策について一生懸命勉強しておこうとする人がいます。
でも、口述試験ではないので学生の政策の詳しさを評価しているわけではありません。
もちろん知っていて悪いことは全くないですが、大学のゼミや論文発表ではないので、例えば少子化対策のよいアイディアを話せたら○とか、自分の政策論で面接官の官僚を納得させれば勝ちとか、そういうものではありません。
また、専門的な研究領域があるのはよいことですが、特定の政策分野に興味・関心が強すぎるのは要注意と感じます。なぜなら、各府省とも幅広い政策を所管していて、事務系の総合職の職員は色んな分野の政策を担当するからです。やりたいことは、ある程度抽象的な方が総合職のキャリアにはマッチします。
就活でいうところの業界研究をするのであれば、オススメは各府省の守備範囲や、国と都道府県と市町村の関係とか、官と民の違いとか、国の政策立案の場と現場の関係とかそういうことです。これを理解していると、前提知識がそろうので、どんな面接官と話してもかなり話が理解できます。
もう一つ、大事なことは自分の生活と政策を結びつけて見つめられているかということです。
例えば、レストランで美味しいご飯を食べるのが好きな人がいたとして、「なぜ、たくさんの選択肢の中から自由に美味しいご飯を食べることができるのか」ということを考えてみると、信頼できる情報の見える化や探せる仕組み、調理法や調理師の育成、文化、飲食店の経営の持続性・人材確保、食品や素材の流通、貿易、農家の経営・人材確保、品種改良など、色んな人の仕事がうまく積み重なって、結果として好きなレストランを見つけて楽しむことができるわけです。
あるいは、途上国と違って、日本ではどこのレストランでご飯を食べても食中毒を起こすリスクも非常に低いので「ここで食べて大丈夫だろうか」みたいな心配をしないで安心してどこでも食事ができますね。これも、生まれた時からそういう環境で生活していると当たり前のように感じるかもしれませんが、そういう状況を作って維持するためにも、たくさんの政策がつまっていますし、まさに公務員の仕事でもあるのです。
そういう身近な「なぜ?」を突き詰めていくと、必ず霞が関の仕事に行きつきます。
政策の答えよりも、自分の問題意識とそれをどこまで掘り下げられて政策に結びつけられているかというようなことが大事と思います。
2. 志望動機の語り方
割と基本的な話になりますが、志望動機の語り方で時々気になる人がいます。「○○の政策が大事から○○省を志望しています」という語り方です。
面接官は、学生以上にその政策の重要性も理解していますし、詳しいです。
なぜ、その政策が重要かという話は、面接官に新しい情報を与えないのです。
伝えてほしいのは、政策ではなくあなたのことです。
私は厚生労働省を選びましたが、産業振興も財政健全化も環境問題もIT化も行政の効率化も、どれもとても大事な政策と思います。
あまたある大事な政策や国の仕事の中で、どれをメインに選ぶかは人の価値観の問題です。
「あなたがなぜそれを大事と思ったのか」を伝えて下さい。
その情報がないと、学生がどんな人か分からないので評価すること自体が難しいのです。
また、1.に書いたことの繰り返しになりますが、政策ややりたいことが自分の原体験や生活実感に結びついていると、志望の本気度が伝わります。
役所の仕事はステイクホルダーが多いです。全ての人が批判してきますし、「それは、あんたには関係ないだろ」と言えない環境です。例えば、一つの法制度を作るプロジェクトをやっているとして、それがどんな法制度であれば想定通りに波風立たずことが運ぶことは、まずありません。必ず、2回くらいは「この法制度実現するの無理なんじゃないか」と思うような苦しい時が来ます。
こういう時に、あきらめてしまうか、「それでもなお」と前に進んでいけるかがとても大事なのです。正直、めちゃくちゃめんどくさくて大変です。
志望が本気だということが伝わると、「この人は苦しい状況でもがんばれそうだな」と感じます。
3.基本的なコミュニケーション
論理的に話をする力も大事なのですが、もっと重視してほしいのは「質問力」です。それによって、学生が何に関心のある人なのか、どんな発想をする人なのか、ちゃんと人間らしいコミュニケーションをとれるか、そういう人となりが面接官に伝わります。
それと、面接は学生の人生を決める大事な機会ではありますが、極力リラックスして感情を解放してください。
言葉を変えると、面接だからと気負わずになるべく素でのぞんでほしいということです。
おそらく、面接官の官僚は自分が経験した仕事の話をしてくれると思いますが、その仕事の話にどのくらい興味を持って聞いているかというのが、その学生の人となりを伝えることにつながります。
本当にそういう仕事をしてみたいと思う学生は、キラキラと目を輝かせながら話を聞きます。オンライン面接だと、ややそういう感情の部分が伝わりにくいかもしれませんが、なおのことにこやかにハキハキとしながら感情を解放できるとよいと思います。
小難しい政策(社会課題の解決策)を考えるような仕事ももちろん必要ですが、これはポテンシャルがあればある程度入省後の訓練で獲得できます。ただ、どんなによい政策を考えてもステイクホルダーに納得してもらわないと実現できないので、実は官僚の仕事のほとんどがコミュニケーションなのです。そして、そのコミュニケーションの重要性は役職が上がるほどに高くなっていきます。総合職は幹部候補生なので、コミュニケーション力がとても大事です。
4.学生時代の経験と強み
学生時代の経験についてもお話する機会があるかと思います。これは、エントリーシートにたくさん書けるような経験をたくさんしているかどうかを評価しているわけではなくて、その経験から何を学んで今の自分を作っているかということが大事です。
エントリーシートに書いたものは、面接のネタになりますので、その経験で苦労したことや獲得したこと、それが今の自分にどう活かされているか、そういうストーリーを語れるようにしておくとよいと思います。
伝えるのは、経験そのものではなく、やはり自分自身のことなんです。
5.リーダーシップについて
官僚の仕事の特徴として、「組織で仕事をする」ということと「所属組織の努力だけで国民に政策の成果が届かない」ということがあります。
つまり、上司や同僚、他の部署の人、さらには組織の外の多様な人たちが同じ目的に向かって動くことが必要になります。
また、総合職は昇進が早いので、比較的若くして人を引っ張っていく立場になります。
だから、多くの人が、「この人と仕事をしたい、この人の言うことならついていこう」と思えるような人であってほしいのです。
リーダーシップというのは、何も誰が見ても分かりやすい「俺についてこい」みたいなものだけではありません。やわらかく包み込んで、みんなのモチベーションを上げていくのが得意な人もいますし、前向きさ、明るさ、粘り強さ、批判に耐えられか、いざという時他の人のことを背負って戦えるかなども大事です。
自分なりのリーダーシップのスタイルがどんなものかも、掘り下げてみてください。
6.ネタ
笑い話の1つや2つ持っておくとよいと思います。
人間の幅や魅力も伝わりますし、深刻な真面目な話ばかりしていると、熱意のある学生だとしても「苦しい時にポキっと折れちゃうんじゃないか」という不安も感じます。ある程度、遊びがあるとよいと思います。
また、面接官を楽しませるのも間違いなくプラスですし、芸は身を助けるではありませが、色んな人を説得する力にもなります。
以上です。
試験の合格と違って、面接は一直線の評価基準の上で学生を並べるわけでもないですし、内定をもらう学生が評価されているポイントもまちまちです。
評価されているという気持ちを持ちすぎず、上手にやろうとせずに、テクニックに走らず、思い切り自分の魅力を伝えて楽しんでもらえればと思います。
千正と一緒に政策について考えてみたい方はこちらをのぞいていただけますと幸いです(↓)。非公開記事や質問コーナーなどもあります。
政策のプロである千正が、みんなと一緒に政策や身の回りの困りごとの解決法などを考えていくサークルです。 千正親方は、毎日20-30分くらいはここに登場します。 普段会わない色んな立場の人が、安心して話し合ったり、交流できる場所にしていきます。
編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2020年6月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。