東京都知事選(7月5日投開票)は、現職の小池百合子氏が、どこの政党からも推薦を受けない方針を決めたことで、最大政党の自民党が自主投票になった。自民党は少なくとも1975年の都知事選以降、過去13度の選挙すべてで推薦候補を擁立していたが、昨年の参院選比例(都内)で各党最多の約187万票を投じた自民支持層が宙に浮いた格好で、その動向が注目される。
極めて異例の事態に陥ったのは、すべて小池氏と自民党側の関係性がぎくしゃくしていたことが原因だ。前回都知事選で、自民党は元岩手県知事の増田寛也氏を擁立したが、小池氏は無所属で強行出馬。劇場型の選挙を仕掛けて旋風を起こし、大勝した。さらに翌2017年の都議選で、小池派の都民ファーストが圧勝。都議会第1党だった自民は、第3党に転落するなど辛酸をなめた。
自民党は、都連が都知事選での雪辱に向けて独自候補擁立をめざしたが、党本部で二階幹事長が小池氏支援の方針を後押しして対立。コロナ問題への対応で小池氏の支持率が上昇した形勢も重なって、自民党は都連が対立候補擁立を断念。党本部方針で小池氏への推薦を出す流れになりかけたが、自民と小池氏の接近を恐れた都民ファースト幹部らの抵抗もあって、小池氏は結局、どの政党からも推薦を受けない方針に転換した。
宙に浮いた格好の自民票取り込みへ、維新推薦の小野泰輔氏の陣営は早速行動を開始。選挙戦2日目の19日午前、小野氏は東京都庁前で小池氏や職員に向けた演説を行ったあと、都議会の自民党控室をアポなしで訪れる“奇襲作戦”に出た。
議会が閉会中とあって、控室に議員は不在で応対に出た職員に挨拶しただけに終わったが、小野氏は集まった記者たちに「自民党は自主投票なので私にもチャンスがあると思い、ご挨拶させていただいた」と話していた。
一方、維新と同じく組織のないれいわ新選組公認の山本太郎氏の陣営も、自民党支持層取り込みを意識し、関係者にアプローチを始めたとの情報がある。山本氏といえば左派のイメージが強く、宇都宮健児氏とのリベラル票の争奪戦が予想されているが、宇都宮氏は立憲民主、共産、社民の左派野党の組織票を固めに入っている。他方、れいわ新選組は昨年夏の参院選当時から反緊縮路線で保守層にもシンパが少なくないとしばしば指摘されてきた。
保守層からも熱視線~れいわ新選組と山本太郎氏(Yahooニュース個人:古谷経衡氏)
政治学者の中島岳志氏は今回の都知事選にあたって、「もし山本太郎さんが都知事選に立候補するとしたら、割れるのは宇都宮票よりも、圧倒的に小池票でしょう」との見方を示している。
もし山本太郎さんが都知事選に立候補するとしたら、割れるのは宇都宮票よりも、圧倒的に小池票でしょう。95年以降当選したのは、青島幸男→石原慎太郎→猪瀬直樹→舛添要一→小池百合子です。都知事選には特有の性質があります。
— 中島岳志 (@nakajima1975) June 10, 2020
とはいえ、前回の都知事選の各社の出口調査で、自民支持層が最も多く投票したのは無所属のはずの小池氏だった。
この傾向は小池氏が現職として地位を固めるにつれ、拍車をかけており、JX通信社が昨年10月時点に行った調査でも自民支持層の過半が小池支持に回っている(参照:ヤフーニュース米重氏記事)。その後、コロナ問題を経て、同社調査では小池氏の支持率は3月から5月にかけて20ポイントも急上昇。自民党支持層もそれに連動して小池氏支持に回っているとみられる。
肝心の自民党内部はどうか。複数の政界関係者によると、自民党都連は、都議たちを中心に本音では「反小池」なものの、国会議員が二階幹事長の意向を尊重。自主投票は「建前」で、小池氏の支援から他陣営への造反に回った場合は「次期選挙で公認しない」と引き締めにかかりつつ、所属議員たちには都知事選と同日行われる都議補選の支援に注力させている。
ただ、都連執行部側の「渋々小池推し」に不満を持つ関係者も少なくない。ある地方議員は「維新が小野氏を囲ってしまっているように見えるので表立っては動きづらい。かといって小池氏には入れたくない」と悩ましい胸中を吐露していた。自民党関係者や支持層のなかに「反小池」票がくすぶっているのは確かで、このまま何事もなく進むのだろうか。