ビラ撒き合戦の朝鮮半島の行方

岡本 裕明

韓国の脱北者団体がばら撒いたビラに刺激された北朝鮮が南北連絡事務所の爆破をしたのは記憶に新しいところですが、今度は北朝鮮が韓国にビラを撒く準備が整っており、風次第でいつでもそれが実行される状況にあります。メディアですでに紹介されているように文大統領の顔の上にたばこの吸い殻がのっかっているビラです。

KBS NEWSより

一方、韓国の脱北者団体は再び韓国側から北朝鮮に向けてビラを配る準備をしており、すでに1万枚が用意できており、こちらも今週にも風次第で実行すると発表しています。

ビラ撒き合戦は我々日本人から見ると不思議な話かもしれません。しかし、ビラ撒きというのは昔からあった古典的プロパガンダの方法でもともとは1871年のパリコミューンの際にフランス政府が気球からばら撒いたものが最初とされます。

このビラ、伝単とも言いますが、日本でも戦時中、アメリカ軍が爆撃機で空襲予告のビラを撒いたりしていました。情報が正確に伝わらない場合においてはこのようなビラは心理的にも内容的にも極めて効果的で古典的でありながらある意味、ネット時代だからこそ余計注目されるやり方かもしれません。

朝鮮半島におけるビラ撒き合戦は双方の緊張感を高めることになりますが、北朝鮮は本気ではなく、ブラフ(はったり)だろうとみています。いまだに金正恩氏が出てこないですし、例の重篤説が出て以降、明白な国策を提示していないところから正恩氏に何かあるとみた方がナチュラルな気がします。与正氏が代行するための「箔付け」的なものでぎりぎりの脅しまではするけれどそこから先は踏み込まない戦略ではないでしょうか?

あくまでも与正氏の北朝鮮国内向けの指導力アピール、および一筋縄に行かない軍を自分の方に向け、士気を向上させるものだとみています。

韓国から見て北朝鮮融和政策の最終目的は南北朝鮮統一なのですが、統一できる土壌はありません。それは国力の差もありますが、中国がそれを求めないように感じるのです。朝鮮半島の長い歴史は三国時代(高句麗、新羅、百済)から南北国、後三国時代、統一王朝時代(高麗、李朝)とあるわけですが、半島の歴史は常に大陸側との距離感のよって決まっていました。

つまり、半島内の主体性は限定されています。最終的には冊封を結んでいた中国との関係や満州経由で影響を受けていたモンゴル系民族との関係が歴史の主題であったといってよいでしょう。ちなみに中国は朝鮮半島に手を出したことが影響して国が滅びたことが2回あります。隋と明であります。中国がその歴史を知らないはずはありません。

その中で時折、日本に秋波を送ってきたのはご承知の通りで日本は常に半島情勢が悪化した時にやむを得ず行動を起こしていましたが、多くは対馬の宗家がそれを代行しています。日本と朝鮮半島との関係は白村江の戦いあたりから豊臣秀吉の朝鮮出兵まで割と淡泊な時代がありました。半島からのアクションに朝廷も幕府もほとんど無反応でした。それも手伝ってか、モンゴル帝国に至っては朝鮮半島の向こうに日本という国があるのをしばらく知らなかったという無知ぶりであったのです。(モンゴルが高麗を征服した後、8年も経って日本の存在に気がついて元寇となったのです。)ところで雑学ですが埼玉県の高麗や新座は半島の高麗と新羅の人が移住した名残の名前です。

朝鮮半島の行方を牛耳るのはやはり大陸側、そして今は満州を中国が抑えていますから中国の影響力次第ということになります。では今、中国は朝鮮半島をどうとらえているのか、ですが、ずばり、扱いにくいと考えているとみています。中国が今腐心しているのは香港、台湾、そして南沙諸島のコントロールが第一義で朝鮮半島は放置のように見えます。

半島の歴史的には南側から北側を支配したことがなかったわけではありませんが、基本は北から南の流れです。そして日本がやむを得ず動くという発想は今でもあります。ならば韓国が北朝鮮に甘言すればするほど北朝鮮の怒りを買うわけで文大統領の今の北朝鮮戦略は私には真逆のように見えるのです。むしろ、北朝鮮へ放置プレーをした方が四面楚歌的な結果を生み、ことの展開が起きるように感じます。

ビラ撒きは時として入れなくてもよいスイッチを入れることもあります。気をつけなくてはいけないのは偶発的な衝突でしょう。いざこざが暴発するのはそのような時で、今の北朝鮮は何をやってもおかしくないとみています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年6月23日の記事より転載させていただきました。