火傷に注意 〜 最近の金価格の上昇はマネーゲーム的になっている

有地 浩

写真AC

最近、金の価格が上昇している。ニューヨークの金市場では一時1800ドル近くまで上昇し、その後反落したものの、依然として1770ドル台で推移している(6月26日現在)。

この理由としては、新型コロナの感染者数がアメリカ南部を中心に再拡大しており、第二波が来ることへの不安から安全資産の金が買われているとか、FRBの超金融緩和政策により政策金利がほぼゼロになったため金利を生まない金の魅力が他の投資対象に比べて相対的に増したとか、新型コロナ対策で政府・中央銀行が歴史的な規模の財政出動や金融緩和を行っているため、将来インフレになるのではないかとの懸念から金を買っているなど様々な説明がされている。

しかし、こうした上昇の理由がどこまで金価格の動きに影響を及ぼしているのだろうか。疑い深い私には、こうした理由は市場関係者が日々の金価格の動きを説明するために考え出した理由で、大した影響力はないように思えてならない。

もちろん投資家にも様々な考えの方がいるので、実際これらの理由で金を買っている人もいるとは思うが、仮にあなたが手元に運用すべき資金がいくらかあったとして、新型コロナで経済の先行きが不安なので今金を買うだろうか。いくら金が安全資産だといってもそれは少し心配のし過ぎのような気がする。そもそも世界に新型コロナの存在がはっきり意識されたのは今年に入ってからなので、なぜ昨年の夏から金価格が上昇しているのか説明がつかない。

一方、将来のインフレ懸念で金を購入するという理由については、今後インフレになるかデフレになるかについては、専門家の間でも議論が分かれている(ちなみに私は、当面は大デフレになると思っている)のだから、インフレ・ヘッジのために今のうちに金を買っておこうと思う人は(長期投資をする人は別として)少数派なのではなかろうか。

やはり最近の金価格を動かしている最大の要因は、昨年夏以降価格が大きく右肩上がりのトレンドとなっているので、それに魅かれて投資家の資金が集まっているということなのだろう。そしてこの上昇トレンドを作り出している原因こそが、主要国中央銀行がとっている超金融緩和施策だと私は思っている。

ニューヨークの金市場に影響が大きいFRBの金融政策の最近の変遷を振り返ると、金融の緩和策と金価格の上昇が歩調を合わせていることが見て取れる。

即ち、FRBは一昨年暮れの株価急落後に、それまで徐々に進めてきた金利引上げやFRBのバランスシート縮小からむしろ金融緩和の方に舵を戻し、昨年7月と9月に2回の金利引き下げを行い、さらに9月の短期金融市場での金利急騰を受けてニューヨーク連銀が市場に資金を大量供給するようになり、これがそのまま事実上の量的緩和政策(QE)の再来となった。

金価格はこうしたFRBの政策の動きに敏感に反応して、金昨年の7月以降それまでの横ばい気味のトレンドを脱して上昇してきている。

超金融緩和政策によってもともとダブついていたマネーは、今や金市場であふれかえっており、コストゼロに近いお金を使ってヘッジファンドなどがマネーゲームを繰り広げ、さらにそこへ価格上昇に魅かれた投資家が参加してお祭り騒ぎをしている状況だ。

マネーゲームの一つの表れだと私が見ているのが、最近ニューヨーク市場の寄付き前後に金価格の急落と急騰がしょっちゅう発生していることだ。チャート(図2)を見てみると、シドニー市場や香港市場で値を上げた金価格がロンドン市場の半ばごろからニューヨークの市場の前半ごろにかけて、急に大きく値を下げた後また値を戻す動きが起きている。

これはヘッジファンドなどが売り崩した後、すぐに買い戻しを入れて利益を得ていることをチャートが示しているのだと思う。

新型コロナ・ショックの経済への影響が大きいだけにFRBはすぐには緩和政策をやめるとは思えないので、しばらくはこうした金価格の上昇トレンドは変わらないだろうが、マネーゲームの面が強いので、一本調子の上昇ではなく、乱高下しながらの上昇となるだろう。

くれぐれもマネーゲームの中で大やけどを負わないように、注意が必要だ。